「エリートへの怒り」がトランプ氏を支える構造
ということで、最後は逆説的に、なぜ民主党は近年、大統領選や連邦議会選挙で苦戦・敗北するのか、アメリカメディアの論評などを調べました。浮かび上がったワードは「エスタブリッシュメント」でした。
20世紀の民主党は、労働組合や移民、農民、都市労働者などが主な支持基盤で、大企業や富裕層に対する「庶民の党」でした。ところが近年は、ニューヨークやロサンゼルスなど都市部の高学歴層や大企業、専門職、官僚、メディア産業などとの親和性が高くなり、地方や衰退した工業地帯などの人々からは「既得権益を守るエリート側」「庶民の痛みがわからない」「見下している」と見られるようになり、ジェンダーフリーや環境重視、移民の人権や国際協調などのリベラルな主張は「生活に困らない、意識高い系の説教」と映って離反が起きた、といわれます。
そうした不満や政治不信の受け皿になったのがトランプ氏で、ワシントンの政治家を「腐敗した支配層」、官僚組織を「ディープステイト(政策を陰で操るエリート集団)」、主流メディアを「偏向したフェイクニュース」「既得権側の手先」などと呼び、実は自らも裕福な実業家なのに、その対決姿勢から「支配層に立ち向かう側」というイメージを獲得したと、米メディアは分析しています。
ただ、この「反リベラル」と言われる潮流は、アメリカだけでなく世界的な現象です。グローバリズムより自国の産業や伝統・文化の尊重▽難民・移民への寛容さより自国の労働者保護――といった流れは、どの先進国でもありますよね。背景には経済のグローバル化が招いた「格差の拡大」があります。
日本で言うと、東京の分譲マンションは平均1億円を超え、普通のサラリーマンでは手が届かなくなる一方、タワマンは海外の富裕層に買われ、高級ホテルやブランドショップは外国人だらけ。その東京も、地方から見れば一極集中の“ひとり勝ち”――という状況に「お題目はいいから、これを何とかしろよ」という怒りや不満が膨らむのは、アメリカと同じだと思います。
ただ、それがイコール社会の保守化かというと、皇室典範改正での女性天皇容認論や、選択的夫婦別姓の賛成意見が、いずれも世論調査で多数を占めることなどから、違う気がします。
そう考えると、いま政治が問われているのは、イデオロギーでなく、中間層の収入アップや負担軽減による「格差の是正」と、そのための政策実現。ここに有効な「解」を示せるのか、批判よりまずはそこからだと、アメリカの混乱は教えている気がします。普通の生活実感に根差すこと。それは「既得権側」だと見られている私たちオールドメディアも問われていると自戒して、今日は閉じます。
◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。






