任期満了に伴う佐賀県知事選挙が12月1日に告示されます。現職の山口祥義氏と、新人で共産党県委員会書記長の上村泰稔氏の一騎打ちとなる見通しです。農業が盛んな佐賀県ですが、農家の高齢化が進み耕作放棄地が増えるなど様々な課題が浮き彫りとなっています。
◆耕作放棄地の増大……
「高齢化、後継者不足、全部水田やったとよ。よかイノシシの遊び場よ」

1年以上放置され荒れ果てた農地。佐賀県武雄市の農家、山北義見さんは「耕作放棄地」を地権者から預かって管理を請け負っています。山北さんに現場を案内してもらいました。
山北義見さん「元々ここは高齢者の方がやっておられて、今は亡くなられて。我々が請け負っていんですが、(耕作は)できていません」
かつて水田だった場所には今、背の高い草が生い茂っています。
「6年くらい前まで米を作っていたが、2年くらいでこういう雑草になる」
◆イノシシ被害が拡大中
RKB岩本大志「私の後ろにある田んぼですが、このように柵で対策をしていたにも関わらず、イノシシの被害で今年全く収穫ができなかったということです」
「今年は(この水田では)収穫ゼロですね。イノシシで荒らされて。獣の臭いとか糞で、収穫できない。臭いが移って。商品価値なしですよ。全くゼロじゃなくて赤字。種まいて植えて、その労力、燃料代もある。大打撃ですよ」
人が近づかず雑草で身を隠すことができる耕作放棄地は、イノシシなどの獣にとって格好の住みかです。佐賀県によりますと、イノシシによる農作物の被害金額は、昨年は1億3700万円で近年増加傾向となっています。県は、イノシシが侵入するのを防ぐワイヤーメッシュの購入費を補助していますが、対策にも限界があるといいます。

「あそこのメッシュを破って川に降りて、水田に上がった。害獣対策をやっとりますけど、こうゆう風にやられてしまいます。行政の補助を受けてやっていますけど限界がありますね。我々の人力では」
◆毎年のように襲う豪雨も……

農家にとってさらに悩ましい問題が、毎年のように発生する豪雨災害です。2020年の豪雨では、武雄市の農地が広い範囲で冠水しました。
農家の早田繁広さん「水路が全部埋まって、水が田んぼ一杯にたまって作物ができなくなった。1年中、水を張りっぱなしです」
2022年秋になってから、ようやく麦の作付けが再開できたといいます。
「(災害のダメージは)やはり大きいですね。災害があったら所得がないですから。それで生活しているもんでね。やっぱり地元で農業をしたい。いくら災害が多くてもですね」
◆担い手不足は深刻

さらに農家の担い手不足も深刻な状況です。佐賀県内で農業に従事する人の数は5年前と比べて約5000人減少。全体の6割を65歳以上の高齢者が占めています。
山北さん「(農家の担い手は)もうほとんどいらっしゃらないですね。もうほとんど若い人はいない。ここらへんでも70歳以上。40歳代でもまずいない」
◆佐賀県知事選の立候補予定者は

こうした農業をめぐる課題について、知事選に出馬を予定している候補者はどのように考えているのでしょうか。
現職・山口祥義氏「担い手をなんとかしてほしいという要望が多くて、トレーニングファームとか、人作りを支援しています。佐賀ならではの取り組みを進めていきたい」
共産党県委員会書記長 上村泰稔氏「今頑張っている農家のみなさんが、ちゃんと希望を持って農業を続けられる、そういう風な佐賀県の農業を立ち上げていきたい」
佐賀県知事選挙は12日1日に告示され、18日に投・開票が行われます。
◆立候補予定者の農業政策

佐賀県知事選挙に立候補する予定の2人の、農業に関する公約です。現職の山口祥義氏は、「トレーニングファームで担い手の育成を支援する」と話しています。トレーニングファームは2017年度から県やJAなどが実施しているもので、農業を始めたい人に2年間研修してもらい、就農につなげる取り組みです。
一方、新人の上村泰稔氏は「米価の価格保障と所得補償制度の復活」を訴えています。佐賀県独自の施策として、米の価格を一定の水準で保障し安定した農業収入を確保できるようにしたいと話しています。
農家の高齢化に加えて豪雨災害の影響もあり、農業を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。農業は暮らしの土台となるものですのでこれまで以上に踏み込んだ対策が求められます。
◆取材後記

身動き一つせず、何かを訴えるようにじっとこちらを見ていた。昔、捕獲されたイノシシと対峙したことがある。激しく動き回るかと思いきや、意外にも黙って動かずにいたことを覚えている。
佐賀県内でイノシシの被害金額が近年、増加傾向にある。一度は減少傾向に転じたものの、昨年度は約1億3700万円に上っている。さらに鳥獣被害のうち、全体の約7割をイノシシが占めているという。
取材した現場では、草木がなぎ倒され、山へと続く獣道が出来ていた。柵のすぐそばには、イノシシが掘り起こした形跡が残っていた。「あいつら、賢いからなあ。ほんと賢い」。農家の男性は、収穫ができなくなった農地を見つめ、つぶやいた。
山間に並ぶ物々しい柵と、踏み荒らされた農地。農地を守りたい人間と、食べ物を得ようと山を下りるイノシシ。人間には人間の、イノシシにはイノシシの、生きるための事情があるように思う。かつて、檻にかかったイノシシは何を思っていたのだろう―。出口が見えない”生き物の攻防”に思いを巡らせた。(RKB報道部 岩本大志記者)







