1972年の長崎にイシグロさんが住んだなら…

ホテル「retro48長崎」を開業した小野さん夫妻

ツアーで見学した中に、2階の2部屋を借りて開業したホテル「retro48長崎」があります。当時の調度品や家電、建具をたくさん集めて、現代の暮らしに必要な設備を整え、「昭和の暮らしを追体験できる場所」として蘇らせたのだそうです。経営するのは小野境子さんと隆さんのご夫婦です。

カズオ・イシグロの部屋の調度品

1つめの部屋は、カズオ・イシグロさんがもし1972年ごろに住んでいたとしたら、こんな雰囲気の部屋だったのかな、という想像で作ったもの。

もう1室は、1年前に放送されたTBSの大人気ドラマ『海に眠るダイヤモンド』がコンセプトです。長崎の炭鉱、端島(軍艦島)に育った主人公の鉄平(神木隆之介)と朝子(杉咲花)がもし結婚していたら、こんな部屋に住んでいたのではないか、というコンセプトで作られたものです。私も、ツアー参加者の1人として見学させてもらいました。

小野境子さん:こっちは「カズオ・イシグロへのオマージュ」という感じのモダンな宿にしたかったから、畳を除けて板張りを張って。1972年の「教養ある中年夫婦の部屋」。お客さんにちゃんと、当時のステレオで聴いてもらおうと思って……(レコードの音楽が流れる)

小野境子さん:当時の『ニューズウィーク』や昔の映画のパンフレット、そんなに汚れていないものを集めました。

神戸:マガジンラック、すごく久しぶりに見ました。

小野境子さん:そうそう、このデザインが昭和っぽいでしょ。

神戸:これは、「べっ甲の帆船」(の置物)。

小野境子さん:「長崎くんち」のオランダ船です。昔の長崎のちょっとした小金持ちの家にはこういうのがあったので。

神戸:宿泊できる状態なんですね?

小野隆さん:民泊ではなくて、ホテルとしての宿泊業許可を取りました。2部屋だから、最大10名まで泊まれます。

『海に眠るダイヤモンド』朝子と鉄平の部屋も

朝子と鉄平が住んだとしたら

2つめの客室に移動しました。

神戸:おお、いいですね。

小野境子さん:『海に眠るダイヤモンド』にはまったんです。「結ばれなかった2人(朝子と鉄平)の結ばれた世界を作ってあげたい、成仏させたいなあ」と、1ファンとして思って。

小野隆さん:2人がもし結婚していたら、新婚生活で端島(通称:軍艦島)で生活できたら、こんな感じで家具を揃えられるよねという、昔の当時のアパートです。世界遺産になって軍艦島にツアーに行けますが、あの古いアパートの中には入れないので、「こんな感じで住んでいたんだよ」と。

ツアー参加客:それは、オタクにとって素晴らしくうれしいですね。ふふふ。

小野隆さん:この地図も実は、端島の当時の地図。

ツアー参加客:はああー!

小野隆さん:だから、「泊まれる博物館」みたいな。

神戸:「泊まれる博物館」ですか!

小野隆さん:そうです、本当に当時の。

※TBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』
昭和の高度経済成長期と現代を結ぶ70年にわたる愛と青春と友情、そして家族の壮大なヒューマンラブエンターテインメント。
脚本:野木亜紀子、監督:塚原あゆ子、プロデューサー:新井順子

「朝子と鉄平の部屋」には、ダイヤル式電話などなど、レトロなものがたくさん揃っていました。さすがに、布団だけは羽毛布団でしたが。「カズオ・イシグロの部屋」にはIKEAのソファーベッドが置かれていました。

映画の公開後、9月12日(金)~15日(日)に「魚ん町+」のガイド付き見学ツアーが開かれます。1日4回、定員は10人で先着順です(ただし、ホテル「retro48長崎」内部の見学は、宿泊予約の入っていない時のみです)。「カズオ・イシグロ氏が見た原風景」についてのトークショーも開かれます。映画の写真パネル展もあります。詳しくは、「ココトト合同会社」のホームページインスタグラムでご確認ください。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞に入社して長崎支局(長崎市魚の町)に配属され、雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部勤務を経てRKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種サブスクで視聴可能。5月末放送のラジオドキュメンタリー『家族になろう~「子どもの村福岡」の暮らし~』は、ポッドキャストで公開中。