あなたにとって「かけがえのない瞬間」「忘れることのできない大切な時間」とは? そんな問いかけから、現在公開中の映画『SUPER HAPPY FOREVER』を解説したのは、クリエイティブプロデューサーの三好剛平さんだ。10月31日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でこの映画の本質・魅力に迫った。

映画の余韻が現実と地続きになるような作品

今週は、福岡のKBCシネマでは11/3(日)まで絶賛公開中、そして佐賀県シアター・シエマでも近日公開予定となっている日本映画『SUPER HAPPY FOREVER』をご紹介します。

私たちの人生に訪れる「かけがえのない瞬間」「忘れることのできない大切な時間」をめぐる本作は、見終えた後にもずっと映画の余韻が観客の現実と地続きに続いていくような素晴らしい一本になっていました。ここからその魅力をご紹介したいと思います。

まずは本作のあらすじから。

『2023年8月19日。伊豆にある海辺のリゾートホテルを訪れた幼なじみの佐野と宮田。そのホテルはまもなく閉館することになっており、そこで働く従業員たちも続々とその退職日を迎えホテルを離れていっている。佐野は、5年前にここで出会って恋に落ち、その後結婚した妻の凪を、最近亡くしたばかり。妻との思い出に固執し、自暴自棄になる佐野の様子を見かねた宮田は、旅の道中で佐野に向けて立ち直るための助言を重ねるが、その言葉は一向に届かない。2人は少ない言葉を交わしながら思い出の場所を巡り、5年前に凪が失くした赤い帽子を探すが——。』

監督を務めたのは五十嵐耕平さん。1983年生まれの彼は、2014年に東京芸大の修了作品として長編『息を殺して』を発表。これがロカルノ国際映画祭新鋭監督コンペ部門に出品され高い評価を得ます。

続く2017年にはフランスの監督ダミアン・マニヴェルとともに共同監督を務めた『泳ぎすぎた夜』がヴェネチアやサン・セバスチャン国際映画祭などにも正式出品されるなど、すでに国際的にかなりの注目を集めている俊英監督です。

今回の『SUPER HAPPY FOREVER』も、今年8月末から開催された第81回ベネチア国際映画祭ベニス・デイズ部門でオープニング作品として選出されるという華々しいスタートを切っており、日本でも9月から順次国内上映が展開されてきた本作が、ついに九州にも上陸した、というわけです。

私たちの〈忘れたくない瞬間〉とは?

あなたの人生のなかの〈忘れたくない瞬間〉とは、どんな場面ですか?

誰かにとっては受験の合格や就職が決まった瞬間かもしれないし、また誰かにとっては大切な人へのプロポーズが実った瞬間かもしれない。だけど、それと同じくらいの方がもしかしたら、そうしたいわゆる「特別な場面」とは異なる、とるにたらない、他愛のない場面を思い出したのではないかと思います。

僕もいまパッとその質問を向けられたときに即座に思いついたのは、妻と娘2人がいつものように夕方リビングのテーブルに揃って、皆でごはんとおしゃべりが始まるような風景でした。

この映画は、妻を失ってしまった佐野という男、そしてもうこの世にはいない妻の凪、そして彼らの人生にふとしたかたちで関わっていたベトナム人のホテル従業員・アンという3人の物語を中心に展開されていきますが、映画は彼らの「とりとめのない時間」をじっと見つめていくような丁寧な視線に一貫されています。

妻の凪役を演じた女優の山本奈衣瑠さんは本作の魅力を問われたインタビューで「タバコを忘れたり、ライターを拾ったり、誰しも生きている中でする所作のひとつひとつが後の世界にも繋がっている、そういう面白さの残った作品だと思います」と語っています。

僕らの普段の日常のなかにおいても、意識にも上らず、記憶にも残っていないはずのひとつひとつの振る舞いが、実は後から振り返ったときには自分自身にとっても、そして自分と関わりを持った誰かにとっても、忘れられない、忘れたくない特別な瞬間になっているようなことはあるのだと思います。

そう考えていくと、私たちが誰かや何かと出会ったり、何気ない時間を過ごしたりするような、人生のあらゆる時間あらゆる場面は、そのすべてが「忘れたくない奇跡の瞬間の候補」である、ということにも思い至ります。

偶然の出会い。他愛のないおしゃべり。世界の歴史の中で言えばごくありふれた、記憶するにも値しないような瞬間こそが、誰かにとっては人生を通して忘れたくない、奇跡のように特別な時間でもあり得る。そういうことを教えてくれるのがこの映画なのです。