10月は乳がんに関する知識の普及などを目指す「ピンクリボン月間」です。乳がんは、日本人女性の9人に1人がなるものの、早く見つけることができればより高い確率で治療できるとされています。
しかし、抗がん剤を使うことで髪の毛が抜けたり、肌や爪が変化するなどの副作用が出ることがあります。精神的負担も大きい、外見的な変化に悩むがん治療者を支えようと取り組む鹿児島市の美容師を取材しました。
鹿児島市郡元の美容室で働く田野尻由梨さん。扱っているのは髪の毛ではなく医療用のウィッグです。田野尻さんは、鹿児島では珍しいウィッグ専門の美容師です。
医療用ウィッグは一般的に専門業者に預けてカットしてもらうため、利用者個人の顔に合わせてカットすることができず、時間もかかりますが、田野尻さんは利用者と直接会ってウィッグ選びのアドバイスからカット、メンテナス、そして再び生えた髪の毛のカットまで行います。
利用者が人目を気にせず済むよう店の奥の個室で対応するなど、気持ちに寄り添った接客をこころがけていて、これまでにおよそ800人を支えてきました。
この日は、先月末に乳がんと分かり、現在、抗がん剤治療を行っているという利用者が店を訪れていました。
(鹿児島市在住60代・乳がん患者)
「彼女(田野尻さん)の美容室に来た時ビックリして。ウィッグを一生使うわけではない、それより治療にお金をかけた方がいいという姿勢だったので、すぐここに決めた。お金の問題よりも心。この患者さんにはこういう物がいいと勧めてくれる」
田野尻さんは20歳で美容師免許を取得し、最初の10年間ほどは普通の美容師として働いてきましたが、結婚・出産を経て仕事復帰を考えていたときに出会ったのが、乳がんを2回経験した女性が作ったウィッグ専門の美容室でした。
その美容室は今は閉店してしまいましたが、田野尻さんはそこで8年間働き、ウィッグ専門の美容師としての経験を積みました。
(田野尻さん)
「経験のない所からスタートした形で、結構戸惑いはありました。私の場合は独学だったが、当時の店の店長やお客様にアドバイスをもらいながら、ハサミを入れていることが多かった」
医療用のウィッグは、化学繊維を使ったものや人の毛を混ぜたもの、機械で作られたものや手作業で作られたものなど様々な種類があります。そのため、生活スタイルに合わせて選ぶ必要がありますが、利用者はどのウィッグを選べばいいのか悩むことが多いといいます。
多くの治療者を支えた経験があり、治療者の体験談なども集まる田野尻さんは、そうした情報をSNSなどで発信していて、多くの治療者の支えにもなっています。
(田野尻さん)
「私としては、実際こうやって使っている人がいたとか、小さい赤ちゃんがいると、こういうことをしてしまうから気を付けてとか、いろんなアドバイスをできる」
田野尻さんのサポートは、抗がん剤による治療の後も続きます。個人差はあるものの、治療終了から数か月で再び髪の毛が生え始めますが、しばらくはくせ毛など以前とは違う質の毛が生えることもあるため、ウィッグが長期にわたって必要になるケースもあります。
急にがん治療と直面し、不安や体調不良も抱える中で、髪の毛など見た目の変化にも悩む治療者たち。そうした人たちを支えていきたいと、田野尻さんは鹿児島では数少ないウィッグ専門の美容師として活動を続けています。
(田野尻さん)
「治療が終わって、髪の毛が生えてきて、ウィッグを外すことを“自毛デビュー”とか“脱ウィッグ”という言い方をする。ここ(美容室)があるおかげで希望が持てて、これから治療にしっかり専念できそうという言葉をいただくと、活動していて良かったと思うので、そういう場所が増えてくれたら」
田野尻さんが働く美容室は予約制で、電話番号は099−250−1080です。
なお、鹿児島市では、がんと診断された人が医療用ウィッグを購入する場合に費用の一部を助成する事業をことし4月から始めていて、この半年で107人が申請し、98人に支給されたということです。