全国和牛能力共進会には、全国の厳しい予選を勝ち抜いたおよそ440頭が出場します。鹿児島県からは24頭が出場。このうちの3頭は、鹿屋市の80代の夫婦が育てた牛です。

ベテランの夫婦が最初で最後と語る「和牛のオリンピック」。60年以上にわたって牛に愛情を注ぐ姿を取材しました。

鹿屋市輝北町の宮園春雄さん(87)と妻のムスビさん(83)。飼育する親牛が生んだ子牛を出荷する繁殖農家です。2人は20代のころから62年間にわたって和牛を育てています。

先月末、霧島市で開かれた全国和牛能力共進会の最終予選会。県代表の牛が決まる最後の審査が行われました。

(県予選5区の審査結果発表)
「出品番号63、46、64。曽於の組。以上と決定させていただく」

親、子、孫の3世代の雌牛を審査する高等登録群の部で、宮園さん夫婦が育てた9歳の「こづる」とその娘で5歳の「なつみ」、そして、孫で3歳の「さくら」が県代表に選ばれました。2人が「和牛のオリンピック」に出場を決めたのは初めてです。

Q.60年の中で今の瞬間はどんな気持ち?
(春雄さん)「最高の気持ち」

自宅には、友人らが次々とお祝いや激励にやってきました。

Q.優勝したと聞いたときは?
(70年来の友人)「びっくりした。頑張ったなと思った」


宮園さん夫婦は、築60年以上の木造の牛舎で5頭の雌牛を育てています。

(春雄さん)「こんな牛舎でもこんな牛が育つ。愛情を込めてやったら、牛がお礼を言う」

(ムスビさん)「やめたいと思ったことはない。かわいいから」

県代表に選ばれた「こづる」「なつみ」「さくら」の3頭は、これまでに合わせて16頭の子牛を産みました。

全国和牛能力共進会の最終予選会では、牛の体形などを見て、繁殖の能力が優れているかや、世代を追うごとに改良が進んでいるかなどが審査され、3頭はいずれも高い評価を受けました。近所の獣医師も太鼓判を押します。

(獣医師・川井田隆志さん)
「一番いいのは発育。生まれた子牛が同じように体格もいいし、発育もいい」

まっすぐな体のラインにつやの良い毛。そして穏やかな性格。わが子のように育ててきた宮園さん夫婦の愛情のたまものです。

(獣医師・川井田さん)
「少数頭(飼育)の農家が少なくなってきている中で、十何年もいい牛を育てられるのはある意味、奇跡。牛に対してものすごく優しい。だからこんなにいい牛が育つ。なっ」

(春雄さん)
「こづるに出会ったから、ここまで来られた。ありがとうと言いたい、こづるに」

「和牛のオリンピック」開幕まであと3週間。鹿屋市やJAの担当者も牛のトレーニングを手伝い、宮園さんたちをサポートします。

(JAそお鹿児島畜産課 東哲朗さん)
「和牛の改良は1日ちょっとじゃできない。何年、何十年もかけてやっている。精一杯できることをして、最後にみんなで笑い合えたらいい」

(鹿屋市輝北支所畜産指導員 中森安夫さん)
「発育、体積、品位。雌らしい品位。一番いい状態で全共(全国和牛能力共進会)で立ってもらえたら」

宮園さん夫婦の2人の子どもたちは県外で暮らし、後継ぎはいません。2人は今回が「最初で最後の全国和牛能力共進会」と話します。

(ムスビさん)
「みんなが喜んでくれるから。それを見て今度はこっちが楽しい。うれしくて。みなさんのおかげ」

(春雄さん)
「みんなの協力のおかげでこんなに出られた。みんなに感謝したい。上位を狙って、頑張ろうと思う」

60年以上にわたり、二人三脚で牛に愛情を注いできた宮園さん夫婦。集大成となる「和牛のオリンピック」はもうすぐです。