ドキュメンタリー映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』が公開され、満席回が続くなど好調なスタートをきった。表現の自由や権力の暴走という硬いテーマに思えるが、観客の反応をみると「声を上げることの大切さ」という普遍的なテーマが見えてくる。特に女性からの反応が顕著だ。なぜなのか、その理由を探った。
(HBC北海道放送:山﨑裕侍『ヤジと民主主義 劇場拡大版』監督)

「映画を観ていかがでしたか?」書籍にサインしながら問いかけるものの、返答がないので私は顔を上げた。
すると目の前に立っていた40代とみられる女性の目から涙があふれていた。

「桃井さんが『声を上げなきゃ』と思って声を上げたら排除されたシーンで泣きました」

 映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』が12月9日から東京と札幌で公開されている。初日、東京・中野区のポレポレ東中野で3回の舞台挨拶に立った。上映後のサイン会では、その後も「泣きました」と感想を語る女性が相次いだ。
予想外のことだった。

舞台挨拶をする山﨑監督とナレーションを務めた作家・落合恵子さん

 2019年7月15日、参議院選挙期間中の札幌で、安倍晋三首相(当時)が遊説していたところ、「安倍やめろ」や「増税反対」とヤジを飛ばした大杉雅栄さん(35)と桃井希生さん(28)が北海道警察の警察官に排除された。大杉さんはソーシャルワーカー。桃井さんは大学生。2人は活動家でも何でもなく、普通の若者だった。日々の生活の中で政治の矛盾や不条理を感じ、「おかしいと思ったことは、おかしいと言う」との思いから声を上げたのだった。声を封じられた若者たちだが、黙ってはいなかった。表現の自由を奪われたとして警察という巨大な組織を相手に損害賠償を求め裁判に訴えたのだ。HBCが制作したテレビドキュメンタリー番組『ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~』(2020年4月放送)はギャラクシー賞など数多くの賞を受賞した。映画は、排除された当事者たちの思いや裁判の経過などを追加取材し、100分にまとめた。