冷たくなった息子の手
妻はそれ以上言葉を発することができなくなり、治療に当たっていた医師の方が代わりに電話に出てくださいました。
事故により内臓が大きな損傷を受け、延命措置を図っても助からない状況だったというような説明だったと思いますが、そのときの記憶はほとんど残っていません。頭の中が真っ白になりました。
ただ1つだけ、「これは悪い夢を見ているに違いない」と思い続けていました。
悪い夢を見ているのではないかという感覚は、今この瞬間も消えることがありません。
できることならまだ夢の中にいて、いつか覚めてほしい。今でもそう思っている自分がいるのです。
東京の職場を午前10時ごろに出発し、飛行機に乗って、倖が搬送されている病院に到着したのは夕方4時ごろでした。
そこには妻と妻の両親、そして眠っている倖(息子)がいました。顔や背中の至るところに大きな擦り傷を負っていました。私は何度も何度もこうを抱きしめながら、「こんな思いをさせてごめんな、痛かったな、苦しかったな、怖かったな」とずっと謝り続けました。
その後の記憶は断片的です。とにかく息子のそばにいてあげたくて、冷たくなった手を握り続け、話しかけ続けていた、それだけの記憶しかありません。










