どれほど暑くても、ガスマスクに防護服、そしてゴーグルを身に着けて行う「特殊清掃」という仕事があります。その内容は、孤独死や自殺などで遺体の発見が遅れ、腐敗によって荒れ果てた部屋の片付け。特に夏は、気温と湿度でより過酷に。そんな夏の特殊清掃の現場に密着しました。
夏は遺体がすぐ腐敗して腐敗臭が発生 依頼件数も増加

名古屋市で特殊清掃を専門に請け負う会社「エム・ユー マルトニ事業部」。例年夏場は依頼が増加すると言います。
(エム・ユー マルトニ事業部・卜部光社長)
「(依頼は)7・8・9(月)が多いですね。夏場だと(遺体が)すぐ腐敗してしまい、臭いがすぐに発生してしまう」

取材した日、特殊清掃スタッフは名古屋市内の賃貸マンションへ。現場に着くと、まずは感染症を防ぐため防護服に着替え、部屋に入る際には、必ず手を合わせます。

この部屋に住んでいたのは、50代後半の男性。生活保護を受け、1人暮らしでした。部屋にはエアコンもなく、2022年6月下旬に熱中症で死亡したとみられています。
身寄りがなく、孤独死でした。真っ黒な顔で横たわって亡くなっているのをマンションの関係者が発見しました。

遺体が横たわっていた畳の床は、傷んで穴が空き、部屋には腐敗臭が充満しています。作業は2日がかりで行い、まずは部屋に遺されたものの片付けから始めました。
近隣に迷惑をかけないため腐敗臭が充満する部屋で作業

部屋からは腐敗臭がするため、近隣の方に迷惑がかからないよう窓を閉め切った状態で作業します。この日の気温は34度。防護服を着ての作業は過酷そのものです。

部屋から次々とゴミを出していきます。亡くなった男性の生前の趣味だったのか、押し入れには本や靴が山積みになっていました。市場では高額取引されるプレミア品の靴もありますが、全て処分します。
(エム・ユー マルトニ事業部・卜部尚専務)
「僕も靴とか好きで集めたりするので、(亡くなった部屋の住人と)少し通ずるものがある」

初日だけでは荷物の撤去は終わらず、作業は2日目に突入。部屋を完全に空室にする仕上げの作業に入ります。男性が倒れていた場所に薬剤を散布し、畳などに残る体液で増殖した有害な細菌が外に漏れ出ないよう固めます。
そして畳を撤去し、特殊な薬品で殺菌と消臭も。窓ガラスや天井にも臭いが付着しているため押し入れの中などにも、丁寧に薬剤を撒いていきました。

(特殊清掃スタッフ)
「この薬剤をかけて最終段階になると、完全に菌や臭いのない状態になって人がすぐに入れるような状態になる」
この日の作業はこれで終了。後日改めて薬品を散布して、部屋はマンションの管理者に返却されると言うことです。

この特殊清掃にかかった費用は、数十万円。亡くなった男性に身寄りはないため、今回はマンション側が負担しました。マンションの関係者は、この部屋を今後貸す予定はないと話しました。