将棋界で現役最強を誇る藤井聡太叡王に、岡山市在住の菅井竜也八段が挑戦しているタイトル戦「叡王戦」です。第1局では惜しくも敗れましたが、五番勝負はまだ始まったばかりです。異なる戦法の2人の対局に注目が集まる中、第2局、一般に有利とされる先手番は菅井八段。地元岡山からも大きな期待が寄せられています。

5年ぶりのタイトル戦に登場した菅井竜也八段。4月11日に、東京の神田明神で行われた叡王戦第1局です。
「よろしくお願いします」
対するは、現在二十歳の藤井聡太叡王、2016年のプロデビューから瞬く間に将棋界の頂点に昇りつめました。現役最強の棋士に菅井八段が挑みます。戦いは、持久戦模様となり、中盤まではほぼ互角の展開でしたが...。
(菅井竜也八段)「(67手目)『3八飛車』と寄られる手が見えていなかった」
中盤以降、局面に差がつき、菅井八段は藤井叡王に147手で敗れました。
6年前の2017年。当時、七段だった菅井さんは王位戦のタイトル戦に初出場し、当時、3冠を保持していた羽生王位と戦いました。第4局では一度動かした「飛車」を元の位置に戻すといった一見無駄と思える手を繰り出し、勝利。4勝1敗で羽生王位を下し、平成生まれの棋士として初めてのタイトルホルダーとなりました。
(羽生善治さん)「完敗でした。力強かった」
(記者) 「菅井さんの将棋はいかがでしたか?」
(羽生善治さん)「悪いところがなかった。攻守の緩急が素晴らしかった」

王位を獲得し、教え子が集まる倉敷芸文館に凱旋しました。

(菅井竜也さん)「これから頑張っていきたい」
(記者) 「王位の実感は?」
(菅井竜也さん)「やっと実感がわいてきました」
菅井八段が得意とする戦法があります。「振り飛車」と呼ばれる戦い方です。

「飛車」を元の筋から動かさず、縦に使うのが、多くの棋士が用いる「居飛車」です。

一方で、対局の早い段階で「飛車」を横に振るのが、菅井八段の使う「振り飛車」です。
倉敷市出身の大山康晴十五世名人も愛用し、アマチュアで人気のある戦法ですが、AI=人工知能の評価では不利とされ、現在トッププロの中では、純粋な「振り飛車党」は菅井八段だけとなっています。
王位を獲得した年の夏。菅井さんは、社会現象を起こしていた藤井さんとの初めての対局に臨みました。プロデビューから29連勝の新記録を打ち立てた藤井さんに対し、菅井さんは「振り飛車戦法」を駆使して貫禄勝ちを納めました。
(藤井聡太四段(当時))「菅井先生の強さを感じました」
(菅井竜也七段(当時))「将棋は将棋なので、一生懸命頑張って行きたい」
ところが、翌年の防衛戦でタイトルを失います。20代、次のチャンスはすぐに来るものと思っていました。しかし新たな若きライバル達に阻まれ、以降、一般棋戦での優勝はあったものの、八大タイトル戦への出場は叶いませんでした。30代を迎え、ようやく掴んだ5年ぶりの挑戦権です。
2017年の初手合いから6年が経ち6冠の藤井叡王。一方で無冠となった菅井八段。これまでの両者の対戦成績は、菅井八段の3勝5敗です。
(記者)「叡王戦へのタイトル思いを改めて教えてください」
(菅井竜也 八段)「一番最後のタイトル戦がすごく前なので、その時の記憶はほとんど残っていません。自分の数年間の悔しさをぶつけたい」
集まった記者からの質問の多くが、菅井八段の「振り飛車」に関するものでした。「居飛車党」の藤井叡王にとって、「振り飛車党」の棋士とのタイトル戦は今回の叡王戦が初めてなのです。
(藤井聡太 叡王)「対振り飛車の勝率は低かったかも。ただ、番勝負に向けて調整してきた」
(記者)「苦しいと言われる『振り飛車』の看板を背負って戦う決意は」
(菅井竜也 八段)「振り飛車の看板をという意識はないですが、今の現状で、振り飛車で自分が藤井さんに負けると、自分以外の振り飛車党では絶対に勝てない。『最高の振り飛車』と『最高の居飛車』の戦いだと僕は思っている。頑張りたい」
形勢の針を一度も自分の方に傾けられず敗れた、叡王戦第1局。先手番で迎える第2局に気持ちを新たに向かいます。
(菅井竜也 八段)「気持ちも入りますし、真剣に勝負できているのでいい経験になっています。精一杯頑張りたいと思います」
「振り飛車党」の第一人者としての矜持。現役最強の藤井叡王に挑戦する叡王戦第2局は、23日に名古屋市で開催されます。「最強の振り飛車」と「最強の居飛車」が再びぶつかり合う熱い対局になりそうです。