円安の勢いが止まりません。28日の為替市場ではついに1ドル=130円を一時突破しました。そんななか、永田町では"アベノミクス"を推進した安倍元総理がいまの"悪い円安"議論は「間違っている」と主張し金融緩和の継続を求めました。安倍元総理が金融緩和にこだわる理由について考えます。(聞き手:小倉弘子キャスター)

後藤政治部長:
今日は岸田総理も非常に頭を悩ませているテーマなんですけれども、円安について考えていきたいと思います。円安と言いますと輸出企業にとっては円安の方が良いんだとか、そういう見方もあるんですが、いま深刻なのは円安によって物価がどんどん上がってくるんじゃないか、そういう懸念が出てるんですね。

そういった中で注目される発言なんですが、自民党最大派閥・安倍派の会長、安倍晋三元総理の4月26日の発言です。

安倍晋三 元総理(4月26日):
「現在油価を中心に燃料、資源等が値上がりしている中において円安が進行している中において"悪い円安"等々の議論がなされているわけでございますが、この議論は私は間違っていると思うわけでございます。そもそも金融政策を為替政策に対応するというのは間違っている」

後藤政治部長:
"悪い円安"とは急激な物価高に繋がるようなものを言うんですけれども、そういった考えに対して真っ向から反対・否定する発言でした。これは4月26日の自民党の勉強会、財政に関して話し合う部会での発言です。安倍さんが言いたかったのは後半の部分だと思います。"金融政策を用いて為替に対応することは間違ってる"おそらく、ここを強調したかったんだろうと思います。

――安倍政権のときの経済政策はアベノミクスと呼ばれていました

後藤政治部長:
そのアベノミクスについては今からもう10年前、2012年に安倍さんが民主党から政権を奪還し、第2次政権を発足させた直後にアベノミクスの原型となる経済政策を訴えたんですね。当時はこのように発言していました。

安倍晋三 元総理:(2012年12月)
大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略。この3本の矢で、経済政策を力強く進めて結果を出してまいります。

後藤政治部長:
これは就任直後の発言で、2次政権が始まる高揚感がかなり伝わってきます。経済政策について"三本の矢"と表現したんですが、その中でも冒頭に言っていたのが"大胆な金融政策"でした。つまり、アベノミクスはいろいろ政策があったんですけれども、一番力を入れるのは金融政策なんだと宣言していたのが象徴的な会見でした。この大胆な金融政策って何かといいますと、政府と日銀、つまり安倍さんと黒田さん(日銀総裁)でいろいろ話し合って政策協定を結んで進めていくということなんですけれども、"異次元"と言われる大規模な金融緩和がその中心となりました。

黒田さんは年平均2%の安定的な物価高っていうのを目標に掲げ、そのために国債などいろんなものを日銀が買うことで市中にどんどんお金を供給していくと。それが結果的には円安に繋がっていきました。

――「黒田バズーカ」なんていう見出しも躍りましたよね

後藤政治部長:
日銀は元々保守的な体質だったものですから、まさかここまで大胆な異次元なことやるんだろうかと市場にもかなり衝撃が広がったと思います。アベノミクスの最初は1ドルが85円前後だったんですけれども、それが100円を超えまして、短期間で120円台まで円安が進みました。その結果、当時は輸出企業を中心に非常に潤ったことも事実なんです。

ですから今回、安倍さんがここまで厳しいことを言っている一つの背景には、おそらくこれまでやってきたアベノミクスそのものがもう根本から否定されてしまうんじゃないかっていうことを危惧してるんじゃないかなとも思うんです。

それともう一つは、アベノミクスを一緒に支えてきた黒田総裁が今も現職の日銀総裁ということもあるわけですから、おそらく黒田総裁にフリーハンド、要するに今の政府がプレッシャーをかけないよう環境整備をするためにこういった発言をしているのではないかなとも思います。

――円とドルは互換性が非常に高いですよね

後藤政治部長:
今回円安が進んでいる要因の一つがアメリカです。アメリカが今までのような金融緩和をやめて出口戦略、要するに引き締めの方に徐々に向かっているという現状があります。既にアメリカの中央銀行にあたるFRBはゼロ金利政策を転換しています。更にFRBのパウエル議長が5月にも大幅な利上げを検討しているという見方が強まっているんです。

――そうすると日米の金利差がさらに開きますね

後藤政治部長:
いま市場はそういうことも織り込みながら徐々に円安が進んでるというのが実態だと思います。マーケットとしても金利が高い方がいいわけですから、このままいくと円安が更に加速してしまう懸念が強まっています。

――だから岸田総理も26日に会見を開いたんですね

後藤政治部長:

今回の会見は主に経済対策、それも原油高と円安など様々な要因による物価高をどうするかというのがテーマでした。記者から円安について問われると岸田総理は「急激な為替変動は好ましくない」とか、「為替の水準というのは経済政策や金融対策、その他様々な政策の結果」という認識を示しました。ただ、今回の経済対策では原油高に対しての補助金を引き上げるとか、所得が少ない家庭のお子さんに対して1人5万円支給するといった対策を示しているんですけれども、やはり円安について対応していくということがなかなか具体策っていう意味でいくと乏しかったんじゃないかなと思います。金融政策は日銀を中心に動かすので、そこでの遠慮とか自分の方で主導権を握るには若干まだ準備が十分ではないというところもあるんだと思います。

おそらく岸田総理あるいは日本政府が考えているのは、今後130円の壁を突破して、さらに円安が進んだ場合、いよいよ何らかの為替対策に取り組まないといけない。それに対してどのような答えを用意できるのか、というのがまさに今の岸田さんの胸の内じゃないかなと思います。

――しかしこのタイミングで安倍さんがこうした発言をするというのはちょっと驚きました

後藤政治部長:

安倍さんとしてもある意味政治的なリスクを背負って覚悟の上であえて言ってるんだなと思います。ですから、そういったアベノミクスそのものの否定に繋がる、あるいはそれを黙って認めることによって、自分の政治的な発言力が弱まってしまうということに対しての危機感というのもあるんじゃないかなというふうに見ています。

――安倍さんの譲れない部分だということですね

後藤政治部長:

安倍政権があれだけ長期に及んだのは一つは、やはりアベノミクスによって、経済がなんとなく潤ってるんだ、順調なんだという空気感を醸し出したという点は確かにあったと思います。ですから、そういった意味で、その根本の部分を否定されかねないという状況に対しての厳しい認識っていうのは安倍さんも持ってるんじゃないかなと思います。