いよいよ来年に迫ったパリ五輪。そのマラソン代表を決めるレースがMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)だ。9日、戦いの舞台となるコースが発表された。

MGCコース

“ここで結果を出せば確実に五輪代表になれる”大会

MGCは、“ここで結果を出せば確実に五輪代表になれる”大会だ。一発勝負と言われることもあるが、正確には少し違う。五輪のマラソン代表は男女3人ずつ。そのうちMGCの結果で代表入りできるのは上位2人である(3人目はMGCファイナルチャレンジで決定するが、詳細は未発表。ファイナルチャレンジで条件を満たす選手が現れない場合はMGC3位の選手が内定する)。
前回の19年MGC男子は、優勝した中村匠吾(30・富士通)と2位の服部勇馬(29・トヨタ自動車)が、女子は優勝の前田穂南(26・天満屋)と2位の鈴木亜由子(31・JP日本郵政グループ)が代表に即時内定した。

MGCを中核とした選考システムは、2016年リオ五輪までと大きく異なる。1980年代に代表選考レースが実質的に1本化されたことはあった。だがその後は複数の選考レースから代表が選ばれるようになり、どんな成績を残せば代表入りできるのか、選手も観戦する側もわからなかった。4つの大会が選考会に指定され、優勝しても代表に選ばれない選手もいた。

それに対しMGCは2位までに入れば、その場で内定が決まる。代表になる成績が明確で、そのためにどんな課題に取り組めば良いかも、各選手が考えやすくなった。
今年のMGCに出場するためには、21年11月以降のMGCチャレンジ大会で定められた結果を出す必要がある。MGCチャレンジ、MGCと2つのステージをクリアすることで初めて、五輪代表入りができる。選手たちは2つのステージに応じた力をつけることが必要になっている。

MGCは選考をわかりやすくすることと同時に、世界で戦うための選手強化を行うことができるシステムとして機能している。

“誰が一番強いのか”がわかる大会

MGCはその時点の国内トップ選手が一堂に会する。日本のマラソン界で“誰が強いのか”が、見ている側もわかりやすい。多くの国民から注目されやすい大会といえるだろう。

4年前はその戦いに3位と敗れた大迫傑(31・ナイキ)が、今年はリベンジを期して臨む。21年東京五輪では6位に入賞。五輪後に一度は引退したが22年2月に現役復帰し、11月のニューヨークシティ・マラソンでは5位。ニューヨークシティはワールドマラソンメジャーズで、世界トップ選手が集まる大会である。大迫は前回のMGC後は、勝負優先のレースで確実に結果を出してきた。まだ今年のMGCの出場権を獲得していない大迫だが、3月の東京マラソンでの獲得が有力だ。

大迫に対抗するのは鈴木健吾(27・富士通)だろう。21年2月のびわ湖マラソンで2時間04分56秒と、大迫の日本記録を更新。同年のシカゴ・マラソンで4位。シカゴもワールドマラソンメジャーズである。そして22年3月の東京マラソンでは2時間05分28秒と、セカンド記録でも大迫の前日本記録を上回った。
さらには2時間6分台を持つ細谷恭平(27・黒崎播磨)も、21年福岡国際マラソン日本人トップの2位、22年シカゴ・マラソン6位と安定した戦績を残している。
ハイレベルの優勝争いが期待できそうだ。

女子は東京五輪の3枠目を争った一山麻緒(25・資生堂)と松田瑞生(27・ダイハツ)が、現時点では優勝候補の双璧だ。
一山は東京五輪代表を決めた20年名古屋ウィメンズマラソンの優勝以来、21年大阪国際女子マラソン優勝、東京五輪8位、22年東京マラソン6位という戦績で、日本人には一度も負けていない。松田も20年大阪国際女子マラソン優勝以後、21年名古屋ウィメンズマラソン優勝、22年大阪国際女子マラソン優勝、そして世界陸上オレゴン9位と、日本人に無敗を続けている。

来月の東京マラソンで2人の対決が実現するが、2人の力は甲乙付けがたい。
女子もレベルが上がっている。前回MGC2位の鈴木、東京五輪10000m代表だった安藤友香(28・ワコール)、細田あい(27・エディオン)、加世田梨花(23・ダイハツ)、佐藤早也伽(28・積水化学)、上杉真穂(33・スターツ)が2時間21~22分台を昨年出している。MGC前に日本記録(2時間19分12秒・05年=野口みずき)が更新されているかもしれない。

一山&鈴木夫妻の同時代表入りの可能性

女子の一山と男子の鈴木は、東京五輪後の21年12月に入籍した。MGCは男女のレースが同日に開催されるので、夫婦同時代表入りの可能性がある。
昨年の東京マラソンでは2人とも日本人トップ。鈴木が2時間05分28秒、一山が2時間21分02秒で、ギネスの「夫婦によるマラソン完走の最速合計タイム|Fastest marathon run by a married couple - aggregate time」を更新した。
昨年の東京マラソンのように、2人がMGCフィニッシュ地点の国立競技場で抱き合うシーンがあるかもしれない。

今年のMGCは前回とはコースに変更が加えられた。スタート&ゴールが明治神宮外苑から国立競技場へ。そして浅草の雷門まで北上する部分がなくなり、須田町から北上し、上野広小路を折り返して南下、銀座を通って内幸町を折り返す部分を2周する。同じ場所で何度も応援できるので観戦もしやすい。そしてフィニッシュ地点の国立競技場へと戻っていく部分で上り坂があるのは前回と同じであり、勝負のポイントとなりそうだ。

新コースでどんなレースが展開されるのか。興味深いのは、他のマラソンと違ってペースメーカーが付かないことの影響だ。
前回、男子は設楽悠太(31・Honda)が前半から飛び出し、37kmまで独走した。しかしその後の5kmは、火の出るようなデッドヒートが最後まで展開された。
女子は前田が20km付近で集団を抜け出て、フィニッシュまで独走した。2位に3分47秒差を付けた走りは圧巻だった。

今年のMGCも独走する選手が現れる可能性も、中盤からロングスパートをかける選手が現れる可能性もある。そしてもちろん、終盤までデッドヒートが続く可能性も。
MGCが他のマラソンと違うのは、どの選手もそれなりの実績を持つこと。観戦している側が、目の前で展開されているレースのレベルがわかるのだ。五輪入賞者の大迫や一山がいれば、世界レベルの戦いがMGCで繰り広げられていることになる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)