飲酒運転で赤信号を無視した車にひき逃げされ、亡くなったという男性がいます。遺族は署名を集め、検察に提出しました。検察が刑の重い危険運転致死ではなく、過失運転致死で起訴したからです。「あれが過失だなんて」。母親の訴えです。
いつもの道を通って自宅へ。去年12月22日午前0時すぎ、仲間との忘年会の帰り道。しかし、25歳の森口和樹さんは両親や2人の兄が待つ大好きな家に帰ることはできませんでした。
母・美智代さん(54)。警察から和樹さんが交通事故にあったと聞き、病院に電話をかけます。
母・美智代さん
「『今しがたまで蘇生試みました』って。だけど、どうしても戻らないので『今しがた中断しました』って。やっぱり信じられないので、というか信じたくないので、黙っていました」
家族みんなで病院に向かい、ベッドに横たわる和樹さんと対面しました。
母・美智代さん
「私はもう何回も、和樹の目をあかんべーするみたいに何回も目を開けて、和樹の瞳に…私の顔を見てほしい。何回も『かあちゃんだよ』って言ったけど、反応しなかった」
「ほぼ即死だっただろう」、医師にそう言われたそうです。現場には、2センチ四方の骨のかけらが落ちていたといいます。それだけの衝撃だったのです。その夜、何があったのでしょうか。
路地を抜けて国道に出た和樹さん。信号の押しボタンを押します。車用の信号が黄色、赤と変わり、手前の車線に停止した車もありました。そして、歩行者用の信号が青に。和樹さんが渡り始めます。そのときでした。中央寄りの車線を猛スピードで走ってきた車にはねられました。
近所の人が事故の音を聞いていました。
現場周辺の住人
「当時は鈍い音がした、『ドスン』って」
「普通の車の事故だったら『ガシャン』と聞こえる。『ぐわん』と鈍い音が。それが大きな音だった」
警察や目撃者によると、ブレーキ痕はなく、制限速度を60キロオーバーするおよそ120キロで衝突。和樹さんは30~40メートル前方に飛ばされ、車はそのまま走り去りました。信号無視をして、ひき逃げ。
それから2時間半後、4キロ離れた同じ国道沿いで、前方が破損した車が見つかりました。運転していた男からはアルコールが。
阪元昊被告(20)。酒気帯び運転やひき逃げ、そして最長20年の拘禁刑に問われる危険運転致死の疑いで警察に逮捕されました。「事故を起こして逃げたことは間違いないが、信号については覚えていない」と供述しました。
ところが、その後、母・美智代さんの元に意外な情報が入ります。検察が危険運転ではなく、刑罰が比較的軽い過失運転致死で起訴したという知らせでした。
母・美智代さん
「あれが危険じゃない、危険運転って言われないなら、何が危険運転なんですか」
危険運転に問える条件として、▼車を制御するのが困難なスピード、▼赤信号をことさらに無視、▼アルコールで正常な運転が困難などが設けられています。今回は、いずれにもあたらないと検察が判断したとみられます。
あいまいともとれる危険運転の条件については見直しが進んでいて、今後、法改正が行われる見込みです。一般道で制限速度を50キロオーバー、呼気に0.5%のアルコールなど、ある数値を超えると危険運転が適用される見通しです。
和樹さんの事故当時、この改正法が施行されていれば危険運転で起訴されたかもしれない。美智代さんにはそんな思いも…
母・美智代さん
「悔しくないと言ったら嘘になります」
今の法律のままでも危険運転致死で起訴してほしい。遺族は4万7000筆余りの署名を集め、きょう、さいたま地検川越支部に提出しました。
母・美智代さん
「きちんと向き合ってくれることを願っています。ちゃんと対応してくれることを信じています」
署名とともに、穏やかで優しかった和樹さんの死を悼み、遺族をいたわる手紙がたくさん届きました。
美智代さんが好きな写真があります。2人で初日の出を見に散歩に出たときの写真です。
母・美智代さん
「和樹と私、2人きりだし、付き合ってくれる息子なんて、そうそういないじゃないですか。嬉しい。今まで通り自分の歩き方で、自分の身の丈で、コツコツと地道に一歩一歩行ったと思うんですよ。それで本人が幸せだったら十分なわけなので、邪魔してほしくなかったなというのは思いますね。私たちにできることを最後まで精一杯してあげたい」
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