台湾では今、性別に関わらず利用できる「オールジェンダートイレ」の普及が進んでいます。設置の狙いは?そして普及の背景に台湾社会を大きく変えた「教育の存在」が見えてきました。
ドアがなく明るく開放的…「性別にやさしいトイレ」とは

台北市内にある小学校。男の子と女の子が一緒にトイレに入っていきます。中には男性用の小便器が6つ、和式が4つ、洋式が1つ。すべて鍵のかかる個室になっていて、だれもが好きなトイレを使うことができます。
性別に関わらずすべての人が利用できる「オールジェンダートイレ」。中国語では「性別にやさしいトイレ」といいます。男女が一緒の空間で使うことからトラブルが起きないよう、さまざまな工夫がされています。
まず、トイレの仕切りには盗撮防止用の壁が設置され、のぞき見できないよう、ドアは床ギリギリまでの高さになっています。非常用のベルも個室ごとについています。中に人がいると自動で音楽が鳴る装置もつけられました。何よりトイレの入り口にドアがありません。明るく、開放的な空間になるよう、工夫されています。
児童に感想を聞いてみました。
「個室に分かれていますが、少し不慣れです」(女・9歳)
「男の子でも女の子でも使えるところが好きです」(男・9歳)
「異性が同時に入ってくることがあり、少し気まずかったです」(女・11歳)
「男性でも自分のスペースがあるのがいいです」(男・11歳)
受け止めは様々ですが、ポイントは「トイレの選択肢を増やしたこと」です。この小学校では21か所あるトイレのうちオールジェンダートイレはこの1か所。つまり、このようなトイレを使いたくない人は、通常の男女に分かれたトイレを使うことができます。
オールジェンダートイレを通じて「ジェンダー平等」を学ぶ

詹瑞璟(せん・ずいけい)校長は、今のところ大きなトラブルなどは起きていないと話します。
詹瑞璟校長
「トイレのドアは常に内側に開く構造になっています。なぜか?誰も使っていないことが一目でわかるからです。女の子も男の子も恥ずかしい思いをしないように、男性用トイレのドアは常に自然に閉まるように設計されています」
「今のところトラブルはありませんが、もちろん最初は多少の違和感や、目新しさや好奇心もありました。子どもたちが理解できるようにビデオを作るなど、教育を通じてトイレの意味を理解させています。今はすべての学校がジェンダー平等教育に熱心に取り組んでいます。様々な手段を使って、子どもたちにジェンダーについて知ってもらうようにしています」
台北市によりますと、オールジェンダートイレの設置は2016年に始まり、これまでに198校に設置されました。来年には236すべての公立学校に設置されるということです。
台北市教育局の黃國忠(こう・こくちゅう)学務校安室主任によりますと、設置のきっかけは2000年、性的指向が原因でいじめを受けていた中3の男子生徒がトイレで死亡した事件でした。これを機に2004年、性的少数者を含むすべての性別の平等を尊重する法律が施行され、学校でのジェンダー平等教育が義務化されたほか、オールジェンダートイレの設置を後押しすることになりました。
黃主任は、オールジェンダートイレは、学校でジェンダー平等についての教育を行う機能も果たしているとその意義を強調しました。2020年からは学校だけでなく、市内で新築・改築される公共トイレにオールジェンダートイレを設置することが推奨されるようになりました。

保護者からの反対はなかったのでしょうか?小学5年生の男の子と小学1年生の女の子の母親でもあるPTA会長の林さんは、「親たちは、とてもいい取り組みだ」と受け止めていると話します。

PTA会長 林姿妤さん
「このトイレによって、子どもはひとりひとり尊重される空間を持つべきだということを教えることができるのでとてもいいと思います」
林さんは、2人の子どもにどう教えているのでしょうか?
「5年生の男の子は間違いなく『なぜ女の子と一緒に使わなくてはならないのか』と思うでしょう。子どもたちには性別を尊重することを教えるべきです。この地域の親たちは学校がこのようなトイレを設置することをとても歓迎し、尊重しています。なぜならこれは教育であり、子供たちに教えるべき概念だからです」