熊本県益城町に区長さんだけがハラハラする祭りがあります。
その祭りの1日に密着しました。
熊本県益城町の津森(つもり)神宮で700年以上続く「お法使祭(おほしまつり)」は、なんと「担いだ神輿を投げ落とす祭」なんです。
神様を乗せているのにも関わらず手荒い扱い。

ですが…
地区の住民
「上手か。落としたね」
「ご利益があるからうれしかー」

その一方で…
杉堂地区 吉村 博典 区長
「ロープのはり具合を見とけよ」
ハラハラしながら見守る男性の姿も。いったい、どんな祭りなのでしょうか?

祭りの前日。神様を乗せる前に神輿の大事な準備が始まります。

ところが…
参加者
「どぎゃんすると?誰か知っている人います?」

津森神社 甲斐喜三男 宮司
「毎年同じ場所の人がするわけじゃないから。みんな新人です」

実は「お法使祭」は、神社周辺にある氏子地域・3町村12地区が1年ごとの持ち回りで担当するお祭り。

当番地区に作られた「お仮屋(おかりや)」と呼ばれる社から神様を神輿に乗せて次の当番地区へ運ぶのです。

つまりその地区にとっては祭りの作法が必要なのは順番が巡ってくる12年に1度だけとなるため、ベテラン勢の記憶だけを頼りに準備をするのが恒例です。

吉村区長
「荒く扱うから崩れないように」

甲斐宮司
「締め具合で決まります。壊れ方も決まります」

「縛り綱」という強固なロープをねじり、屋根を固定。「手荒い」のが前提の祭りなのに、一体なぜなのでしょうか?

吉村区長
「修理は受け渡す側がする。壊した分は自分たちで直してお宮に持って行く」
地元で「おほしさん」と呼ばれる神様は「荒神様」。手荒い扱いこそ威光を盛り立て喜ばれると信じられているため「荒神輿」と呼ばれる習わしがあります。

そのため神輿の修理費は、当番地区の負担。という訳で、神輿の修理を最小限にとどめたいというのが区長の本音です。

2022年の当番は杉堂地区。祭りの始まりと言われている地域です。

まずは、地域でこの春からスタートする東海大学の新キャンパスをお祓い。

東海大学九州キャンパス 木ノ内 均 キャンパス長
「我々もこの祭りに負けないように地域貢献できる大学を築いていきたい」

そして午前10時。ご神体を神輿にうつします。

この祭りは、いわば神様のお引越し。決まったお社がない「おほしさん」を次の地区へ受け渡すためのおよそ4時間におよぶ巡行が始まります。

そして、道中で始まるのが…あの荒神輿。

修理費が脳裏をよぎる区長は、気が気でない様子。

神職も、すかさず神輿を点検!
神職
「扉が取れそうなときはストップかけます」

沿道では、この日を楽しみにしていた地域住民たち。

親戚や知人なども祭りの手伝いにかけつけ、地域の活気が一番高まります。

そんな中、ちょっと異色のスーツ姿の男性が…

キヤノンマーケティングジャパン 中濃 剛司 自治体プロジェクト推進室長
「文化庁の有識者会議があって許可をもらったので」

文化庁からの委託で「まつり」の記録に来ていました。
中濃さん
「見たことなかったのでびっくりしました。最後、神輿の形でなくなるじゃないか」
次の当番地区の人が待つ中、予定を1時間過ぎて神輿が受け渡し場所に到着。

しかし、ここですんなり渡してしまえば次はまた12年後。名残を惜しむような荒神輿が続きます。

担ぎ手
「もうダメダメ」

役員からストップの声。ところが誰もおろそうとしません

区長
「もう納めるぞ」

たまりかねた区長が割って入り、杉堂地区のお法使祭りは終了しました。

吉村 区長
「村おこしの一環としてこういうお祭りはいい、一致団結して。地区民が地震でだいぶ減ったんですけど、また絆みたいなものが生まれた」
