【前編はこちら】社員が辞めない、魅力ある会社を作る

【後編(2/2)】 「くるま旅」「車中泊」を根づかせるために

日本トップクラスのキャンピングカー(RV)ビルダーとして、年間約1200台を4カ所の自社工場で製造し、国内10カ所の店舗(直営8・正規ディーラー2)のネットワークで全国展開しているナッツRV(株式会社ナッツ)。その卓越した開発力と高度な技術力、きめ細かなサポートで多くのファンに支持され、着実な事業実績を積み重ねている。

創業者である代表取締役・CEO荒木賢治氏が語る、ナッツRVの魅力とは。
後編では、組織の枠を越えて業界の未来を切り拓く、荒木氏の未来ビジョンについて聞いた。

キャンピングカーが主役の、新モータリゼーション

2021年、荒木氏はイベント事業部長、副会長を経て“日本RV協会代表理事 会長”に就任した。同協会は、「くるま旅」「車中泊」を通じて日本にキャンピングカー文化を根付かせることを目的に発足し、「くるま旅」「車中泊」が楽しめる環境整備や、キャンピングカー市場の拡大と育成、業界の発展に関するさまざまな活動に取り組んでいる。

荒木 代表取締役・CEO
「私は日本を『キャンピングカーが、普通で、当たり前の国にしたい』と思っています。でも日本には、そのためのインフラが整備されていない。そこで組織の枠を越えて各社が連携し、キャンピングカー文化の創造に取り組んでいます」

1964年の東京オリンピック直後から、日本はモータリゼーションによって経済的にも文化的にも大きな進化を遂げた。車が社会に広く普及したことで、実際にGDP(国内総生産)が大きく伸び、人々のライフスタイルも変化した。

荒木氏が思い描く「日本をキャンピングカーがたくさん走る国にしたい」とは、言い換えるなら「日本にキャンピングカーが主役の新たなモータリゼーションを起こす」ということだろう。その一つとして、現在全国に500カ所あるRVパークを今年度中に約700カ所まで増やし、数年以内に1000カ所にする取り組みが進んでいる。

ヨーロッパでは年間21万台、アメリカでは年間33万台のキャンピングカーが販売されている。周辺産業を含めた市場規模はドイツが約4兆円、アメリカが約10兆円。一方、日本のキャンピングカー市場は車両売り上げのみだが約1500億円に過ぎない。日本は国際的に先進国として認知されているが、キャンピングカーに関してはいまだ開発途上にある。

荒木 代表取締役・CEO
「キャンピングカー文化はさまざまな波及効果をもたらします。〝旅〟への意識や概念、また人生観に豊かな影響を与えるでしょう。レジャーに限定されたキャンピングカーのイメージも、現在少しずつ変わってきました」

毎年開催されるお客様参加型のイベントは日本最大級。500台超、約1500人以上が参加する

キャンピングカーのナッツ・採用ページ

災害支援や出張など、レジャー以外の用途も拡大

同社では、社員専用のレンタルキャンピングカー56台(新車)を、福利厚生以外に災害支援や宿泊を伴う短期出張でも活用している。アクシデント対応など急な出張時には、前日夜に目的地付近までキャンピングカーを走らせ、車中泊して翌朝早くから対応する。ホテルを探す手間が省け、移動時間も短縮できるメリットがある。

能登地震の際には、地元自治体をはじめ全国の自治体やTV局から問い合わせが殺到した。発災直後の現地に宿泊先は無く、ホテルが稼働していた金沢市内から現地までは道路の寸断で移動に7〜8時間を要し、毎日通うことは出来なかった。そこで荒木氏は、日本RV協会の加盟企業に声をかけ、約60台のキャンピングカーを能登に向かわせた。

これに先駆け、同社はキャンピングカーによる災害支援や復興サポートにいち早く取り組んできた。2021年には九州経済産業局と、翌2022年には福岡県岡垣町、遠賀町、太宰府市、宗像市と「災害時におけるキャンピングカーの提供に関する協定書」を締結している。この協定により、大雨や地震などの災害発生時には要請に応じてキャンピングカーを貸し出し、移動可能な災害対策本部や、避難が難しい人の一時的な宿泊先、職員の休憩場所といった多様な活用ができる体制を整えた。

荒木 代表取締役・CEO
「『とにかく初動が早い!』『設置から運用まで時間がかからない』『移動が可能』『プライバシーを確保できる』など、キャンピングカーの特性は災害時に大いに役立ちます。電源車として、避難所の更衣室や授乳室として、被災地に派遣する職員の移動手段や宿泊先として、実にさまざまな場面で活用できるのです」

同社のこうした先進的な取り組みが、キャンピングカーの可能性を着実に引き出していく。レジャーに限定されないキャンピングカーの潜在的価値が、今後ますます注目されるのは間違いない。

荒木 代表取締役・CEO
「キャンピングカーの活用範囲は本当に幅広い。日本のキャンピングカー文化はまだまだこれからですが、災害列島とも言われる日本ならではのニーズも増えているでしょうね。今の市場規模の小ささは、それだけ伸びしろがあるということですから」

キャンピングカーのナッツ・採用ページ

「15日間の夏季休暇、社員専用のキャンピングカー56台」という同社の特筆すべき特色も、単に福利厚生の充実だけが目的ではない。社員がキャンピングカーの潜在的価値を見出し、社会貢献できるアイテムであることをしっかり実感してもらうための機会でもあるのだ。

2025年4月 石川・珠洲市に義援金と「クレソンジャーニーエボライト」1台を寄贈


対話を通じて育む〝技術者スピリット〟

同社はトップビルダーとして、技術追求に余念がない。世界のトップメーカー・トヨタの第一線で活躍してきたOB技術者を指導者として迎え入れ、トヨタ生産方式によるモノづくりの考え方とノウハウを現場に根づかせてきた。QC(※)活動も非常に盛んで、毎年10チームによる業務改善の提案があり、優秀な2チームを選出して表彰している。

※QC   
「Quality Control」の略語で「品質管理」を意味する。特に製造業における品質管理に対して用い られることが多い。製品の品質は製造コストや収益性、企業の信頼性などにも直結する重要な要素 であり、その対策として重要な役割を担う。

製造現場の平均年齢は30歳。マイスター級の先輩が技術やノウハウを惜しみなく伝え、後輩がそれをしっかりと吸収し、新たな視点のアイデアを加えて進化させる。そこには「見て覚えろ」といった前時代的な雰囲気は一切なく、丁寧な指導と互いを理解しあう風通しの良いコミュニケーションが根づいている。

きめ細かな学びの環境整備と実践を通じて、技術者のプライドが自然に育まれていく。若手社員はQC活動を通じて夢や誇りを語り、自分の役割を認識する。そして、静かで熱い〝技術者スピリット〟が宿っていく。

荒木 代表取締役・CEO
「現場リーダーとして活躍し始めると、自然に責任感が芽生えてモチベーションも上がります。そして、友人や後輩に『ウチに来いよ、いい会社だぞ』と声をかけるようになる。ナッツには社員の紹介入社がとても多い。それがとても誇らしく、嬉しい」

だが、組織が拡大すると、コミュニケーションの機会が減ることも懸念される。そこで荒木氏は、リスクマネジメントの一環として年間のべ20日程度、社員総会や営業会議、研修など互いに語り合えるコミュニケーションの機会を設けている。

荒木 代表取締役・CEO
「宿を貸し切って、泊りがけでじっくり語り合います。『最近の若者はそういうのは苦手』と思われがちですが、意外にそうでもありません。知らなかった、経験が無かったというだけで、目を輝かせて先輩の話に聞き入り、想いを語っています」

キャンピングカーのナッツ・採用ページ

上司や先輩には事前にテーマを与え、後輩の心を開いて本音を引き出すよう伝えておく。多忙な現場を離れ、仕事観や人生観を語り合う機会は貴重だ。SNSやゲームなどの間接的コミュニケーションで育った若者も、対話を介して心がふれあう直接的コミュニケーションをむしろ新鮮に感じるらしい。

そうして築いた関係性が、現場で活きてくる。同社でOJTがスムーズに進む背景には、このような継続的な取り組みがあるのだ。

チャンスは、すべての社員に公平に与えられている 若くして責任者になる社員も多い


「この人なら、この車なら間違いない」という魅力

美しく高精度なパネル構造のボディー、上質で使いやすさを追求した内装家具、アイドリング3時間で完全充電が可能なエボリューションシステム(特許技術)など、ナッツのキャンピングカーが有するさまざまな魅力は、多くのファンに支持されている。

広報戦略も、CM展開やスポーツやイベントのスポンサードに力を入れ、九州圏内の知名度は確実に高まった。感覚的に九州圏内を走るキャンピングカーの半分以上が、同社のブランドと感じるほどシェアは高い。

荒木 代表取締役・CEO
「私たちの企業理念は『キャンピングカーライフの新しい価値と夢を創造し、豊かで素晴らしい未来社会の実現に貢献する』。そして社訓の一つが『自分に限界を作らない』です。
ナッツの目的は、文化を育み、市場を開拓すること。ここには楽しそうに夢を語る社員が数多くいます。自分に限界を作らず、どうしたらできるか考えて努力すれば、大抵のことは何とかなります。
私は、夢を語り合える仲間と出会いたい。人や時代のせいにせず、自分をふり返り『ごめんなさい』『ありがとう』と素直に口にする。そんな仲間と一緒に、50年後、100年後に残る会社にしようと思っています」

日本のキャンピングカー文化の未来は、同社のこれからの歩みにかかっている。そのリーダーである荒木氏のまわりには、いつもさまざまな人々が集う。荒木氏と同社のキャンピングカーに、そんな普遍的な魅力を感じた。

成長を続ける株式会社ナッツの原動力は、エネルギッシュな社員に支えられている


【前編はこちら】社員が辞めない、魅力ある会社を作る

キャンピングカーのナッツ・公式サイト
https://nutsrv.co.jp/