【前編(1/2)】 社員が辞めない、魅力ある会社を作る

日本トップクラスのキャンピングカー(RV)ビルダーとして、年間約1200台を4カ所の自社工場で製造し、国内10カ所の店舗(直営8・正規ディーラー2)のネットワークで全国展開しているナッツRV(株式会社ナッツ)。その卓越した開発力と高度な技術力、きめ細かなサポートで多くのファンに支持され、着実な事業実績を積み重ねている。

創業者である代表取締役・CEO荒木賢治氏が語る、ナッツRVの魅力とは。
前編では、これまでの軌跡について話を聞いた。

経営者としての責任を果たす、会社作り

「企業のトップとして、常々心がけていらっしゃることは何ですか」という最初の問いかけに、荒木氏は「私は〝社員が辞めない、魅力ある会社〟を作ろうと思ってやってきました」と答えた。

株式会社ナッツ 荒木賢治 代表取締役・CEO
「『この会社を辞めたくない、ここで働き続けて成長したい』と社員が思えるような会社にすることが、経営者の責任だと思っています」

自社を語るにあたって、大半の経営者はまず、事業特性や商品力、技術力、業界シェア、知名度、業績、成長率などから話を始める。だが、人材確保や離職率など〝人〟の課題が経営を大きく左右することになった昨今、優秀な人材の確保こそ経営の普遍的なテーマ。だからこそ荒木氏はシンプルに、「社員が辞めない、魅力ある会社を作る」という点にフォーカスする。

企業の魅力は、事業性、技術力、市場性、成長率、資金力、給与待遇、福利厚生、働きやすさなど多様で、「この会社を辞めたくない、ここで働き続けて成長したい」と思われるには、さまざまな社員の志向を満足させる、多面的な組織構築に取り組まなければならない。しかし、そのハードルはとても高く、一朝一夕に成し得るものではない。それだけに「社員が辞めない、魅力的な会社を作る」というメッセージは強い。

もちろん同社の事業実績は、その言葉を裏付けている。近年の「車中泊ブーム」を反映してキャンピングカーへの関心は高まり、市場は拡大している。同社では、国内最高峰のフラッグシップモデル「ボーダーバンクス」をはじめオリジナルブランド14車種を市場に送り出し、海外輸入車やオリジナルパーツも含め、業績は右肩上がりを続けている。

荒木 代表取締役・CEO
「人気車種は納車まで3年待ちという状況で、市場ニーズが年々高まっていると感じます。しかし、今期は少しペースを落として社内の足固めを優先したい。設備投資や人材登用、待遇改善など、社員の働きやすさや安心感をしっかり形にしようと思います」

株式会社ナッツ 荒木賢治 代表取締役・CEO

キャンピングカーのナッツ・採用ページ

社員の〝楽しさ〟を応援する、連続15日間の夏季休暇

同社の待遇改善への取り組みの一端は、すでに〝連続15日間の夏季休暇〟として制度整備されている。

荒木 代表取締役・CEO
「目標は〝連続1カ月間の夏季休暇〟で、今はまだその途中です。社員専用レンタルキャンピングカー(新車)も56台確保しています。社員自身がキャンピングカーによってもたらされる楽しさや魅力を体感することが、お客さまへの一番の説得力になりますから」

1936年に長期休暇(バカンス)を法制化したフランスを中心とするヨーロッパには、「余暇を通して、生きる喜びと人としての尊厳の意味を見いだす」という考え方が根づいている。第二次世界大戦後、国家戦略としても働き方改革やインフラ整備が進み、こうした背景下でキャンピングカー文化が人々の生活に定着した。

ちなみに〝キャンピングカー〟は和製英語であり、英語圏ではRV(Recreational Vehicle)、Camper Van、Motorhomeが正式名称で、車体の大きさや使い方で呼び名を使い分けている。

荒木 代表取締役・CEO
「〝連続1カ月間の夏季休暇〟が実現すれば、家族や友人と向き合う時間が増えて関係性も深まるし、男性の育児がもっと一般的になるかもしれません。新たな趣味や仕事を含めた勉強に挑戦する意欲も高まるでしょうし、人生設計をじっくり考える機会になります」

荒木氏は「年収1000万円、年間休日135日」を全社的に平均的社員像としてイメージし、そのために不可欠な中長期経営計画に沿って、人事制度改革や待遇改善などの制度整備を含めた組織構築を進めている。

荒木 代表取締役・CEO
「もちろん、もっと年収の多いサラリーマンはたくさんいます。それでも現在の日本では、一定の安定につながる目安ではないでしょうか。私はナッツを、そんな物心両面の〝豊かさ〟を実感できる人生を送りたいと考える仲間でいっぱいにしたいのです」

若手社員が多く、明るく元気な社風もナッツの魅力のひとつ

キャンピングカーのナッツ・採用ページ

興味を抱いたら徹底して探求し、頂点を極める特異な性分

ここで、独自の人材観に基づいて経営手腕を発揮する荒木氏の足跡を振り返ってみよう。

1960年、福岡県北九州市戸畑で生まれ育った荒木氏は、青春時代を大切な仲間と存分に謳歌して社会に出た。自動車メーカーを経て入社した化粧品販売の仕事で、きめ細かな教育研修によって人の能力は無限に開花することを学んだ。この時期、荒木氏は経験を通じて営業力を含めた自身の大きな人間的成長を実感。その後、結婚を機にサラリーマンを辞め、お祭りなどの露天商の仕事に転じる。荒木氏のまわりにはいつも人が集まり、新婚家庭にも居候が数名、同居していたほどだ。

やがて無店舗の中古車販売を経て1990年に店舗を構え、スポーツカーの販売を始めた。ある時、友人にもらったハイエースをベースにした医療診察車を店先に置いていたところ、派手な装飾を施した車が、代わる代わるその車を見に訪れることに気がついた。マニアの間で「VANing(バニング)」と呼ばれるカスタムカーである。当時ブームになり始めて興味をそそられた荒木氏は、さっそくカスタムカーを手がける全国のショップを回るようになる。

荒木 代表取締役・CEO
「すっかりカスタムカーのおもしろさに魅了され、愛知で修業して自分でも製作し始めたのです。本場アメリカへも視察・研修に行きました。スポーツカーからカスタムカーへ転身し、やがてカスタムカーの全国大会で2回続けてグランプリを獲るまでになりました」

連続して頂点を極めたカスタムカーへの情熱は、ここで鎮静化する。荒木氏は次の照準をキャンピングカーに定めて猛烈な勉強を始めた。まず出かけたのは、ドイツで開催される世界一のキャンピングカーショー。驚いたのは、その規模と盛況ぶりであった。

荒木 代表取締役・CEO
「出展台数2000台で10日間の開催。そんなキャンピングカーショーなんて日本にはありません。世界の頂点を極めたようなキャンピングカーがずらりと並ぶ様子を見て、まさに目からウロコが落ちました。これはやりがいがある世界だ、すごいことになる!と、身体が熱くなったのを覚えています」

1996年、本格的にキャンピングカーを手がけるにあたり、荒木氏はそれまでの個人的な〝家業〟を〝企業〟に進化させると決めた。仲間と一緒に3人で始めた事業が、数年後には数10人の陣容になった。

バンコン(※①)の『キャロット』、キャブコン(※➁)の『スピナ』を経て、スタッフ総力を挙げて自社開発の『グランツ』をリリース。そして2007年、初のフラッグシップモデル『ボーダー』を発表した。斬新なスタイルとゴージャスな内装が評判を呼び、「いつかはボーダー」と言われるほど高い評価を得た。

※①バンコン  
 商用バンをベースに内装を改造してキャンピングカーにしている。
 走行性能に優れ、日常使いにも適している。
※➁キャブコン 
 トラックの運転席部分を残して荷台に居住空間を作り上げたキャンピングカー。
 キャンプ時の利便性を重視し、固定ベッドやキッチン、トイレなどが設置されている。

国産最高峰。プレミアムクラスの「ボーダー」は、同社のフラッグシップモデル(ボーダーはバスベース)

キャンピングカーのナッツ・採用ページ

高度で豊富なラインナップを支える、国内外の技術拠点

ものづくりに決して妥協しない点は、ナッツの代名詞と言える。名車『ボーダー』をリリースする上で、海外工場の開拓が大きなカギとなる。1996年のキャンピングカー事業参入以来、注文が引きも切らず、北九州の本社工場や若松工場だけでは生産が追い付かない状況になったのだ。

そこで2001年、荒木氏は中国に大連工場を開設。主に『ボーダー』『クレア』のアルミニウムボディー、家具設計・製造、組み立てなどを担い、約160名のスタッフが働いている。2013年にはフィリピンにセブ工場を開設した。主に『クレソン』のFRPボディー、家具設計・製造、組み立てなどを担い、約300名のスタッフが働いている。現在は3つの工場を有す。

海外工場と並行して、国内工場の高度化にも余念がない。2019年には本社工場にパネル工場を新設し、パネルの品質確保と量産化を図るため業界初の「ホットプレスマシーン」と「オートアプリケーションマシーン」「CNCルーター」を導入。オリジナル高断熱コンポジットパネルの量産化に成功した。

現在、本社工場・若松工場はナッツキャンピングカーのアッセンブリー・組立か完成工場として、また最終完成検査場としての役割を担っている。

荒木 代表取締役・CEO
「それぞれの海外工場は、ナッツのスピリットを宿した、私が全幅の信頼を置く責任者に運営を任せています。高度な製造技術と生産管理が徹底されており、安定的な部材供給のおかげで国内工場との連携もスムーズです」

北九州で創業し、北九州で最終的な組み立てを行い、全国にナッツキャンピングカーを送り出している。まさに北九州から全国へ、そして世界へ。

そのために荒木氏は、日本のキャンピングカー市場拡大に向けて、あらゆる活動に取り組んでいる。

シリーズ【後半】では、自社の業績にとらわれることなく、業界の未来を切り拓くための挑戦を続ける、荒木氏のビジョンと具体的な取り組みについて紹介しよう。

福岡県北九州市に位置する北九州工場(北九州市若松区)


【後編はこちら】「くるま旅」「車中泊」を根付かせるために

キャンピングカーのナッツ・公式サイト
https://nutsrv.co.jp/