熊本県人吉市の青井阿蘇神社で行われたおくんち祭。
そこで奉納される「球磨神楽」(くまかぐら)が、25年間舞い続けていた男性から17歳の高校生に世代交代。その初舞台に密着しました。

人吉球磨地方に伝わる伝統の「球磨神楽」
他の神楽に見られない独特の演目や、神がかり的な要素を多く含んでいるのが特徴です。

毎年10月8日の青井阿蘇神社を皮切りに、人吉球磨地方の秋祭りで奉納されていますが、今年は特に注目を集める演目がありました。

さかのぼること約4か月…
青井阿蘇神社の神楽殿に子ども神楽の経験を持つ10代から20代の9人が集められました。

この日は、限られた人しか舞えない演目の体験会。
会長
「これからの獅子はまだハード」
中神 さん
「四隅を練り歩く感覚。ぜんぶ中腰。立つことはない」

熱心に説明を続けるのは、中神 寿一(なかがみ ひさかず)さん(52)。
27歳の頃から25年間、ひとりで「獅子」を舞い続けてきました。

17番の演目がある「球磨神楽」で、この「獅子」は、勇壮な動きと、時折見せるコミカルな振る舞いで神様や参列者たちを喜ばせます。
中神 さん
「話をいろんな人たちとしている中で若手の神楽手(かぐらて)で手を挙げた人がいたので…ハマダくんという高校生です」

ゲームをしながら獅子の動画でリズムを覚えているという「驚異」の自主トレを行っているのが、後継予定の濵田 勝己(はまだ かつみ)くん。高校3年生です。
勝己 くん
「本当に今でも思うけど、本当に自分でよかったのかなって感じます」

後継者への立候補。
実は、練習中に予期せぬ流れから推薦され、決まってしまったそうなんです。

勝己 くん
「自分ってちょっとなんですか、自分を下に見るタイプなんで…どっかで間違えたらどうしようとか、そっちの方に考えが行ってしまって…(後継者を)自慢するような考えにはいかないんすよ」

「自分は卑屈なタイプ」と断言する勝己くん。傍で見守る両親に尋ねると?
母
「中学まではすごいサッカーをずっとしていて、ものすごいスポーツ少年」
父
「中学校2年の時かな。ちょっと手に負えないっていう感じになって。学校も休みがちになったり、サッカー部も途中で辞めたいとか。自分たちだけではもう限界というかどうしていいか分からなかったので神社の人に相談しにいった」


青井阿蘇神社の広報撮影を担当している写真家の父、喜幸さんの提案で球磨神楽を始めることになった勝己くん。いろんな年代の人たちと関わるようになって反抗することが減っていったといいます。

父
「何かを掴んだら、それがきっかけとなっていろんなことを生きていく上で自信になるんじゃないですかね」
母
「できるって信じて、もう見守ろうと思ってます」

中神 さん
「よかですか?和歌詠んで…」
生きた獅子が舞うような動きでみせる約10分間。そのための特訓が本番まで続きます。

勝己 くん
「保存会の皆さんとかに一番…やっとスタートラインに立てたよって意思表示をしたい」
勝己 くん
「大丈夫っす」

そして迎えた初舞台の日。
中腰のまま四方を何度も練り歩き、お祓いをします。

最後の和歌が詠み終わると…
母
「頑張ったね!!」
勝己くんは獅子の初舞台を見事にやり終えたのでした。
