続いては、「わたしたちのSDGs」。
今回は山形県鶴岡市の月山高原の小麦づくりについて。
コメが余る現状の中、時代に合った農業を目指す取り組みを取材しました。

先月、鶴岡市の月山高原に巨大な機械が現れました。
小麦を収穫するコンバインです。
県内初導入のコンバインで、高さはおよそ4m、普通のトラクターの1.5倍の大きさがあります。

鳥海山や月山を望む高原に大きなエンジン音を響かせ、幅およそ6mに渡って黄金色に波打つ小麦「月山高原小麦」を次々と刈り取っていきます。
スケールの大きな収獲の様子は北海道や海外の広い穀倉地帯を思わせます。

月山高原農地委員会
斎藤力会長
「月山高原の畑約100haある中で広大な畑にぴったりの大きな機械で非常にびっくりしているし、これから期待が持てるかなと思っています」

月山高原農地委員会
佐藤俊一さん
「きのう普通の稲を刈るコンバインで(麦を)刈ったんですが、刈り取り幅も2倍以上あるので、ものすごく性能がいいと思いました」

小麦は刈り取りに適した期間が1週間もなく、時期を逃すと収量が減るため、広い畑に大型機械を導入し、一気に刈り取る方法は理にかなっています。

小麦を栽培しているのは7人の農家と米中心の農業を変え、食料を地域で自給する仕組み「スマートテロワール」構想の実現を目指す有志らで作る「月山高原農地委員会」です。

月山高原農地委員会
斎藤力会長
「農家の高齢化とか、畑ではいつも問題になる連作障害で、近年耕作されない畑が増えてきた。そこを何とかしたいということで、小麦とか枝豆とかで畑をぐるぐる回す輪作体系を作っていこうと思っています」

耕作放棄地を解消したいという思いから始まったプロジェクト。

月山高原農業委員会では100haの農地のうち、まず12haの土地を集約し、行政の手を借りずに基盤整備を行い、水はけを良くしたり、石を取り除いたり、たい肥を入れ、大規模農業に対応した大きな区画に整備しました。

作物は連作障害が出るため、「輪作」と言って小麦を作った畑では次の年は大豆、その次はトウモロコシを植えるなど、作物を交代で栽培する方式を取ります。

「小麦」の生産に取り組んだのには理由がありました。

輸出用も含め、大規模な米作りを行っている斎藤副会長です。

月山高原農地委員会
斎藤一志副会長
「生産調整で今、5割以上 米作ってダメっていうことになっている。(米の生産が)限界に来ている状況なので、まず小麦をこの山の畑で作ってみて、もし良ければ平野部の田んぼでも本格的に小麦栽培に入ろうかと思っています」

農林水産省の統計では国民1人、1年間当たりの米の消費量は1962年度の118.3キロをピークに減少が続き、2年前の2020年度は半分以下の50.7キロにまで減少しているのです。

現代の食のスタイルに合った農作物を作らなければという危機感からの小麦づくりでした。

月山高原農地委員会
斎藤一志副会長
「パン、ラーメンが大好きなので。今は海外から85%も輸入した小麦を買っている状況なので、それを国産に替えること自体が環境的にも輸送コストもかからないわけですし、国土保全にもつながりますから」

地元産の小麦に注目し、月山高原で収穫された小麦を使う飲食店も増えてきました。

鶴岡市の農場併設のレストラン「穂波街道 緑のイスキア」はイタリア、ナポリで修業した庄司健人さんが伝統のナポリピッツアを提供している人気店です。

ピッツアの生地は小麦と水、塩、酵母のシンプルな材料でつくられているだけあって材料一つ一つが大事だといいます。
店ではイタリアの小麦をベースにしながら風味付けに1%~2%の少量ながら月山高原の小麦を使っているそうです。
小麦の味は庄司さんが太鼓判を押します。

穂波街道 緑のイスキア
庄司建人さん
「見ていただくとふすま(小麦の表皮)なので、見ても茶色でちょっとパン粉みたいなくらいの感じですよね。すごく粗くてこれがピッツアに風味をつけてくれる」
「香ばしさという部分ではすごく この粉が与えてくれる風味は強いですね」

庄司さんは月山高原で開かれる小麦畑の見学会にも参加し地元の食材を応援してきました。
ロシアのウクライナ侵攻により、世界的に小麦の供給や高騰に不安が広がる中、今後の生産拡大に期待がかかります。

穂波街道 緑のイスキア
庄司建人さん
「やっぱり(農家の)顔が見えるという安心安全な部分はすごく強いです」
「生産量が徐々に増えていることによって価格もこのあと安定してくるでしょうし、品質的にも安定していく見通しが立っていますから積極的に使っていきたいと思っていますし、メリットはこれから増していくのではないかと思っています」

ただ、小麦の生産を拡大し、安定的な経営を続けていくうえでは課題があるといいます。
斎藤副会長によりますと製粉業者の買取価格が輸入小麦1キロ72円なのに比べ、国産は1キロ35円から50円と安いと言います。
意外にも国産小麦の方が輸入小麦より安く買い取られるのだそうです。

月山高原農地委員会
斎藤一志副会長
「安定した価格で粉を作って、みなさんに提供できるような仕組みを作れれば国産の方もどんどん増やしていけると思っています」 

月山高原農地員会では景観づくりにも力を入れています。

月山高原農地委員会
斎藤力会長
「目指せ、美瑛ということで、みんなで取り組んでいるところです」

美しいなだらかな丘陵地に畑が広がる北海道美瑛町のように月山高原では紅花、ひまわり、コスモスと季節に合わせた花々を植え、観光にも一役買いたいとしています。

霊峰月山の麓、新たな農業が動き出しました。