福島県の指定伝統工芸品、大堀相馬焼。浪江町の大堀地区で発祥し、300年以上の歴史を持つ焼き物です。その特徴は、陶器の表面に現れる青ひび、二重構造の二重焼き、そして走る馬の絵「走り駒」です。

この伝統を守り抜く窯元の一つが、白河市にあるいかりや窯。創業は江戸時代後期、300年を超える歴史を誇ります。現在13代目を務める山田慎一さんは、大堀相馬焼の象徴である「駒絵」を描く上で、先代からの教えを大切にしています。

「丁寧に書け、っていうふうに先代に言われているので、相馬のご神馬と言われる焼き物の絵柄なので。優しさだけじゃなくて、ピリッとした、厳しさのようなものも表現できればいいなと思ってます。」

受け継がれる信念と、進化を恐れない挑戦

代々長男が継ぐことが多い、いかりや窯。山田さんもその道を選びましたが、継いだ当初は葛藤があったと言います。

「相馬焼、当時は私、少し古臭いなっていうふうな思いもあったもんですから。そういったイメージをですね、少し一新して、相馬焼が、若い人とか受け入れられるような、そういったものに変えていきたい、そういう思いはありました」

古き良き伝統を守るからこそ、進化を恐れない。葛藤を乗り越えた山田さんは、新しい大堀相馬焼の表現に挑みました。その一つが、独自の技法で生み出した紫色の器です。完成までには5年の歳月を要しました。

山田さんは、作品作りにおいて一貫した信念を持っています。

「そんなに派手とか奇抜なものではなくてもいいから、間違いなく確かなものをお届けしたい、そういう考えで、一個一個手を抜かない、丁寧に仕事をするっていうのをモットーに、仕事をしています」

故郷を離れて見つけた、新たな伝統の光

挑戦を交えながら真摯に作品と向き合ってきた山田さんですが、15年前に発生した震災と原発事故により、故郷の浪江町からの避難を余儀なくされ、歴史の歩みが一時的に止まりました。

避難生活の末にたどり着いた白河の地。震災から半年後、困難を乗り越え、再び大堀相馬焼と向き合うことを決意しました。

「20年間、焼き物しかやってこなかったので、ろくろに座って作ったときには、すごく心が落ち着いたというか」

新たな地での再起は、山田さんをもう一つの挑戦へと導きました。それは、かつて白河に存在した「白河焼」の再現です。白河焼は、白河藩の第三代藩主・松平定信が地元の産業振興のために育んだ歴史ある焼き物。鉄分の多い粘土から生まれる独特の斑点と、素朴でシンプルな佇まいが魅力ですが、時代の波に飲まれ歴史が途絶えていました。

「誰も知られずに風化してしまう、っていうのは、ちょっと残念なのでね。なんとかですね、私もちょっと白河市に何らかの恩返しもしたいので」という思いで取り組み、2020年、幻の焼き物と言われた白河焼の復活を成功させました。

最新技術との融合、そして故郷への帰還

伝統工芸品を未来へ紡いできたいかりや窯は、今年4月、驚きの取り組みを始めました。3Dプリンターという現代技術との融合です。

鏡石町のミツワエンジニアリングが3Dプリンターで制作した型を、山田さんが焼き物用の石膏型にするという共同制作。須賀川市出身のイラストレーターが作ったキャラクター「ポセミン」の置物には、大堀相馬焼の特徴である青ひびがしっかりと刻まれています。

ほかにも白河の狛犬など、精密度の高い作品が生まれています。「正確に再現できるところが非常に大きいですね。大幅に時間の短縮とか、より精度の高い作品ができるようになりました」と山田さんは語ります。新しい相馬焼を作る上で、最新技術は今後非常に役に立っていくと考えています。

そして今年3月、新たな歴史がスタートしました。山田さんは、震災前に活動していた浪江町の窯場に工房を構え、避難先の白河市と生まれ故郷の浪江町、二つの拠点で活動する新たな一歩を踏み出したのです。

次の世代へ、伝統の火を灯し続ける

長年抱き続けてきた故郷への思い。その背中を強く押したのは、一人の若者との出会いでした。地域おこし協力隊の柳沼さんです。彼は将来、窯元になることを目指し、山田さんのもとで大堀相馬焼を学んでいます。柳沼さんの真っ直ぐな熱意が、途絶えていた故郷・浪江の窯に再び火を灯したのです。

柳沼さんは、「自分の工房っていうのを構えられたら、自分にとって理想的なことだと思いますし、そこからまた自分の下の世代の人らが相馬焼に興味を持ってくれたら、すごい、自分にとっては、うれしいことです」と夢を語ります。

山田さんは、後継者となる柳沼さんを、この地で生計を立てられる人物に育てたいと考えています。「食べていけてこそのせともの屋だと思うので、時には厳しく、物作りに対しての心構えっていうのもしっかり伝えて、お客様に対する考え方、そういったものも伝えながら」と、その育成に力を注いでいます。

伝統とは、新しいものを築いていくこと。いかりや窯の歴史は、これからも未来へと続いていきます。

『ステップ』 
福島県内にて月~金曜日 夕方6時15分~放送中
(2026年7月30日放送回より)