いわゆる「袴田事件」で死刑が確定していた袴田巖さんの再審=やり直しの裁判で9月26日、静岡地裁は無罪判決を言い渡しました。専門家はこの判決が袴田事件にとどまらず今後の捜査のあり方や再発防止にも影響を与えると指摘します。

<袴田さんの姉 ひで子さん>
「あった。袴田さん再審無罪。証拠3つのねつ造。ね。こっちの新聞も」

各社の一面を飾る自分たちの記事。9月27日朝、ひで子さんは巖さんに新聞を見せ、26日の判決を姉弟で振り返りました。

<袴田さんの姉 ひで子さん>
「返事はしないですが、なんとなく表情がちょっと明るくなりました。ちょっと紅潮したような表情でね。たぶん、わかっているのかな」

<井手春希アナウンサー>
「袴田巌さんに無罪判決という旗が出ました。ついに悲願が実る判決が出ました」

58年前、静岡県旧清水市(現静岡市清水区)で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」。再審=やり直しの裁判で9月26日、袴田巖さんに無罪が言い渡されました。

<電話>
「無罪出ましたよ」
<島内和子さん>
「あ~よかった」

福岡県にも、袴田さんの無罪を信じ続けていた人がいます。島内和子さん。4年前に亡くなったパートナーの熊本典道さんは、1968年、一審・静岡地裁で袴田巖さんに死刑判決を下した3人の裁判官の1人でした。

<熊本典道 元裁判官(故人)>
「『あれは絶対ぼくはこう(無罪だと)思いますよ』と(裁判長に)かなり説得を試みました。だけど、最後結論として(裁判長の)石見さんが無罪に踏み切れなかったんですよね」

熊本さんは死刑判決から40年の時を経て、「本当は無罪だと思っていたが、多数決により、仕方なく死刑の判決文を書いた」と公の場で告白しました。亡くなる前まで「判決を書いたから自分が悪い。袴田さんに申し訳ない」と悔やみ続けてきました。

<島田さんが熊本さんに報告>
「無罪、になりましたよ。袴田さん。よかったですね。今からゆっくり休まれてください。天国で跳んで喜んでいると思います。毎日かなり苦しんではったからですね」

裁判では、事件から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかった「5点の衣類」など、3つの証拠について「捜査機関のねつ造」と言及。判決文を精査した専門家は「ねつ造の認定に踏み込んだことは画期的」と話します。

<元裁判官 西愛礼弁護士>
「やっぱりねつ造みたいな不正行為というのはきちんとこういう形で指摘されないと、また将来同じようなことが起こってしまう。将来の違法捜査抑制の観点からも、こういう風に司法は毅然とした態度を示すというのがすごく意味があることで、やはりそこも踏まえて今回の裁判官のメッセージというか、思いというのはもう2度とこういうのを出してはいけないんだと、繰り返しちゃいけないんだという、そこに強い思いがあるというふうに感じます」

一方で、4人が亡くなった事件の真相は過去に取り残されたままです。

<近隣住民>
「しょうがないね。袴田さんも頑張っただろうから。事実は分からないけど、みんな(袴田さんが犯人だと)思っていたからね」
<近隣住民>
「警察が信じられない。何で警察が(捏造を)初めからしたのかなって思う」

9月27日の県議会では議員が県警の本部長に対し、無罪判決についてのコメントを求めました。

<静岡県警 津田隆好本部長>
「これにつきましては、議員ご指摘の通り、未だ判決が確定していないことからお答えを差し控えさせていただきます」

<デモ行進>
「袴田さんは無実だ。これ以上、袴田さんを傷つけるな」

今後注目されるのが検察が控訴をするのかどうか。無罪判決を受けて控訴断念を要請する動きは活発になっていて、袴田さんの弁護士らも静岡地検に申し入れをしました。
控訴について静岡地検は「上級庁と協議した上で対応したい」としています。

<袴田さんの姉 ひで子さん>
「長かったけどさ、裁判は。無罪ですって裁判長さんが言った。だからもう裁判所も行かない。安心しなよ。よかったね」

58年続く事件の歴史に決着がつくのか。控訴期限は10月10日です。