配合飼料の価格は1トン当たり、11年前の2012年は5万5000円でしたが、2022年は10万1000円。ロシアによるウクライナ侵攻や円安などが影響し、10年間で2倍近くになっています。

畜産農家にとって頭の痛い飼料価格の高騰は、世界的に問題になっています。その解決につなげようと、鹿児島の女子高校生があるビジネスプランを考えました。そのアイデアとは…コオロギを活用したものです。


鹿児島市で開かれたビジネスプランのコンテスト。県内に住む学生や社会人が社会の様々な課題の解決を目指した新しい事業などのアイデアを競うものです。

64組の応募の中から大賞に選ばれたのが、市来農芸高校・畜産科の1年生、上村愛さんです。

(上村さん)「すばらしい賞をもらえたのは、恵まれた環境で先生やアドバイスをもらった人たちのおかげ。感謝したい」


上村さんが考えたビジネスプランの主役は…コオロギです。上村さんは畜産科の実習で牛や豚の世話をする中で、飼料の高騰に悩む農家の現状を知りました。

そして、思いついたのが、コオロギを家畜の餌に活用することです。授業で昆虫のことを学んだとき、コオロギは100グラム当たりのたんぱく質の量がおよそ60グラムと、高たんぱくであることを知りました。

一般的な配合飼料のたんぱく源は大豆かすですが、その多くは輸入に頼っています。コオロギを代わりに使えば国産でまかなえる可能性があります。

Q.コオロギに触るのは平気?
(上村さん)「全然大丈夫。日常の中で出てきたら逃げる派だが、研究対象として見ると何も思わないようになってくる。よく見たらかわいい」

上村さんは、学校の寮の空き部屋でまず30匹を飼いはじめ、繁殖を繰り返して500匹に増やしました。寮の友だちと試行錯誤を繰り返し、たどり着いたのが…

(上村さん)「コオロギを合わせた飼料です」

コオロギを砕いて、米ぬか、もみ殻、おからなどと混ぜ合わせて発酵させた「発酵飼料」です。まずは、高校で飼育するニワトリに与えたところ。

(ニワトリに飼料を与える上村さん)「はい。いっぱい食べて」

上村さんオリジナルの飼料のうち、コオロギは全体の1%です。おいしそうに食べるニワトリを見て、上村さんは手応えを感じました。

Q.1%でも違う?
(上村さん)「コオロギに含まれるたんぱく質が高いので、少しでもあげたら、効果が違う。においから味から変わってくる。喜んでいると思う」

では、コオロギを使うことによるコストはどうなのでしょうか。コオロギは少ない餌と水で飼育でき、ふ化から3か月ほどで成虫になります。

上村さんは、年間29万匹を育てて、その一部を発酵飼料に利用し、500羽のニワトリを飼育した場合の生産コストを試しに計算しました。その結果、生産コストは一般的な配合飼料の3割から4割程度にまで抑えられると見込んでいます。

そして、上村さんのこだわりは、こんなところにも。飼料が発酵したときに出る40度ほどの熱をコオロギを飼う部屋の暖房代わりに利用。環境に負荷をかけない育て方も研究しています。

(上村さん)「調べてみると発酵熱はコオロギを飼育する適温に近く、この熱を使ってみたらどうかなと思った」


試行錯誤を繰り返してたどりついたコオロギ入りの発酵飼料。人前で発表することは苦手という上村さんでしたが、練習を繰り返し、ビジネスプランコンテストで堂々と発表。

(発表する上村さん)「コオロギを中心に鹿児島の発展と、地域活性化プランを模索していきたい」

大賞を受賞し高い評価を受けました。まだ課題も多いコオロギ入りの発酵飼料ですが、コンテストの審査員からは「商品化を実現してほしい」と、期待する声が上がりました。

(審査員を務めた起業家)「事業プランをもう少し大きくして、専門家も入れたら商売になる。投資しようかなと思った」


一緒にコオロギを育てた友だちも、上村さんの大賞受賞を喜んでいます。

(市来農芸高校1年 田邊ゆきなさん)「上村さんの努力もあるし、結果が出て私たちもやっていて良かったと思った」

(市来農芸高校1年 川嵜葵さん)「とてもうれしい。愛ちゃんを見ると、自分も発表してみたいなという気持ちがわいてくる」


高校1年生ながら畜産の未来を見据え、新しいビジネスを考えた上村さん。将来の夢は…

(上村さん)「今は学校で養豚を専攻して学習している。将来は農業関連の職に就きたい」


畜産農家を悩ませている飼料価格の高騰。その解決につながればと、上村さんが知恵を絞ったコオロギを活用した飼料生産のビジネスプラン。実用化が期待されます。