来月15日に開業するJR仙巌園駅は、鹿児島県内では15年ぶりに新しく設置されるJRの駅で、観光振興や経済効果が期待される一方、安全面を懸念する声も聞かれます。開業まで1か月あまり、現地を取材しました。

(記者)「桜島を望むJR仙巌園駅。屋根など駅の形も見えてきています。来月の開業に向け急ピッチで準備が進められています」

名勝・仙巌園前に開業する産業革命遺産開業まで1か月あまりとなり、おととい11日は、駅のスロープの整備などが行われていました。

仙巌園駅は、日豊本線・鹿児島駅と竜ケ水駅の間に設置される無人駅で、鹿児島中央駅からは2駅で、10分ほど。上下線合わせて1日57本運行されます。

整備費はおよそ4億円。県内でJRの新しい駅が設置されるのは、2010年の「神村学園前」駅以来15年ぶりです。

(広島から)「運転をあまりしないので、電車があったら女子旅とかで来ても助かる」

(広島から)「電車だと普段行かないようなところも通ると思うので、見る景色も違うのかなと思う」

(県内から)「早く着くのが一番いいと思う」

設置に向けて本格的に動き出したのは2016年。旧集成館などが世界文化遺産に登録されたことがきっかけです。ただ、一帯が世界文化遺産区域に指定されたことで、新たな施設の整備には「景観を損ねない」などの制約がありました。

整備を進めてきた協議会の藤安秀一会長は、「世界遺産ならではの苦労があった」と振り返ります。

(磯新駅設置協議会 藤安秀一会長)「足湯でもつけてゆっくりできたらいいねとは思ったが、なかなか叶わない。そんなに立派な駅には見えない、これはしょうがない。分かっていただけるとありがたい」

町内会の顧問を務める折田雄一さん(86)も駅の完成を待ちわびているひとりです。

(磯町内会・顧問 折田雄一さん)「大願望だった、地域社会の。間もなくだな、3月15日のオープンなので。感無量で見ている」

駅の設置に向けて、地域の代表として地元企業や議員へ働きかけてきました。

(磯町内会・顧問 折田雄一さん)「磯海水浴場、仙巌園も含めて、これだけのいい環境の整った場所はないと自負している。磯海水浴場のお客さんが増えればもっといい。地域環境もいい意味で成長ができてくると思う」

磯海水浴場では、現在市が管理するビーチハウスの改修中です。一部を民間に貸し付け、来月の開業日にはカフェ、7月にはゲストハウスがオープンする予定で、一年中にぎわう場になると期待されます。

一方、懸念されているのが周辺の渋滞です。駅前の国道10号は交通量が多く、渋滞や事故の多いエリア。

鹿児島国道事務所によりますと、去年3月から、鹿児島市街地に向かう車線で左折専用レーンの供用を開始した結果、ピーク時の直進車両が2割増えた一方で、急ブレーキの発生頻度が2割減り、渋滞緩和につながったとしています。

JR九州は、仙巌園が開園する前の朝のラッシュ時に通過列車を設けて、踏切の待ち時間を短くするなどの対策をとる予定ですが、県トラック協会は「安全面へのさらなる配慮も必要」と訴えます。

(県トラック協会 加納潤一副会長)「(観光客に)合間をぬって抜けるなどされたときに、車と接触事故。トラックなので一旦事故が発生すると被害が大きい、特に対人となれば。横断歩道の左右に1人、2人配置できれば一番いい」

観光客の増加への課題は残りますが、経済面での期待は高まっています。

鹿児島経済同友会は開業後1年間の経済波及効果について、57億円と試算。コロナ禍を経て、九州への外国人入国者数は去年12月の1か月間におよそ39万人と過去最高となっていて、経済の専門家は「九州新幹線との相乗効果で、県全体の観光振興につなげることが重要」と話します。

(九州経済研究所 福留一郎部長)「(新幹線は)航空機よりも大量に運ぶことができ、便数も多いので、パイプが太くなるという意味では、仙巌園駅があることで観光客全体の数が今よりもさらに増えることは期待できる。鹿児島全体の観光客の層が厚くなれば良いと思う」

人口減少が加速するなか、交流人口を増やし、地域の発展につながる魅力的なまちづくりも求められます。

(磯新駅設置協議会 藤安秀一会長)「人が来るところには活気が出てくるので、これを逃さずに、鹿児島の魅力を訴えていきたい」

世界文化遺産を生かした「稼ぐ観光」の玄関口となる仙巌園駅。期待と不安・・・さまざま思いを乗せて、まもなく出発です。