「自治体の職員が逮捕されるニュースを見るたび、怖いなと思ったが、政権(町長)が変わって感覚が麻痺していた」
「昔からの慣習で、ここまでのことになるとは思わなかった」「同僚職員に働き掛けて秘密文書入手―」
裁判で事件の背景が明らかになった。
瀬戸内海に浮かぶ25の離島で構成される愛媛県上島町。
広島との県境に位置し、2004年に弓削町・生名村・岩城村・魚島村が合併して誕生した人口6000人ほどの町だ。
2022年10月に発覚した上島町発注の公共工事をめぐる入札妨害事件。
非公表となっている価格情報を漏らして工事を落札させたとして、町の幹部職員や地元建設業者の役員ら合わせて5人が逮捕される事態となった。
そのうち、町の産業建設部長(当時)のO被告(当時)と、地元建設会社Xの元役員・M被告(当時)、そして地元建設会社Yの元役員・N被告(当時)の初公判が1月16日に松山地裁で行われ、3人が証言台に立った。
「間違いありません」
検察官が読み上げた起訴状。
裁判官に問いかけられた被告3人は、その内容を一様に認めた。
問われている罪は「公契約関係競売入札妨害」。
2011年の刑法の一部改正で新設され、入札の公正性を害する行為があった場合には、処罰の対象となる。
1円単位まで同じ 1億504万2108円で落札
「2020年8月27日に行われた『長江港浮桟橋改修工事』の入札で、上島町で生活環境課長(当時)として勤務していたO被告(当時)は、役場内のパソコンから送信したメールで、地元建設会社Xの元役員・M被告(当時)に工事の予定価格と調査基準価格を教えた」
「地元建設会社Xは、調査基準価格と同額の1億504万2108円で落札した」
「同年同日の『令和2年度岩城地区増殖礁(=漁礁)設置工事』の入札でも、O被告(当時)は、同様の手口で、地元建設会社Yの元役員・N被告(当時)に予定価格3128万4000円であることを教えた」
「地元建設会社Yは、予定価格に近い3120万円で落札した」
「もって偽計を用いて公の入札の公正を害した」
「罪名および罰条、公契約関係競売入札妨害」
静まり返った法廷内で、検察官が読み上げる起訴状の内容に耳を傾ける3人の被告。
黒っぽいスーツを着た町の産業建設部長(当時)のO被告(当時)の隣には、紺色のスーツを着た地元建設会社Xの元役員・M被告(当時)が座っている。
いずれも黒いネクタイをしている。グレーのスーツ姿で傍聴席に背を向けて腰を掛けているのが地元建設会社Yの元役員・N被告(当時)だ。ネクタイはしておらず、中には黒いセーターを着込んでいる。