本物の警察官が来ても「偽物かもしれない」と思った
犯人グループは、最後まで女性を外の世界から切り離そうとしていた。
「警察を名乗る人が2人くらい行くかもしれないけど、絶対に信用しないでください。普通の態度で接してください」
そう何度も念を押されていた。
金融機関からの情報提供を受け、本物の警察官が女性の自宅を訪れた時も、女性はすぐには信じることができなかった。
「刑事さんが来ても、本物の刑事さんかなって疑っていました」
むしろ、犯人から聞かされていた通り、「やっぱり来た」という感覚の方が強かったという。
警察官から「絶対に詐欺です」と何度も説得されても、すぐには頭が追いつかなかった。
実害こそなかったものの、女性の心には『信じ切っていた』という深い衝撃が残った。
どこで、どうして自分が“マインドコントロール”されていたのか。
女性自身、今もはっきりとは分からない。
「ずっと、絶対これは詐欺じゃないと思っていたから。『なんで?』と思うことはいっぱいあったんだけど、その“なんで”が詐欺には合致しなかったんです」
あと少し遅ければ、現金は犯人の手に渡っていたかもしれない。
取材の最後、女性は同じような電話を受けるかもしれない人たちへ、こう語った。
「やっぱり、人に言わないでと言われても、誰かに相談しなきゃダメだなと思います。警察だって『言うな』なんて言わないと思うから」
「誰にも言うな、というのは、逆に言ったほうがいい。知らない電話は取らないほうがいいし、変だと思ったら、一度受話器を置いて、冷静に考えないとダメだと思います」
テレビや新聞で、特殊詐欺のニュースを見ていた。
「まさか自分が」
そう思っていた。
だからこそ、気づけなかった。
「フルネームで呼ばれた瞬間、全部信じてしまった」
その言葉は、特殊詐欺が決して“特別な誰か”の話ではないことを、静かに突きつけている。










