30日に兵庫で開幕を迎える第32回高校女子サッカー選手権。過去には宮澤ひなた(24、星槎国際湘南高校)や鮫島彩(36、常盤木学園高校)といったなでしこジャパンのメンバーも出場。これからの日本女子サッカー界を担う「なでしこの蕾」たちが日本一をかけ鎬を削る。
青春をサッカーに捧げた女子高校生はそれぞれの想いを胸にピッチに立っている。過去5回の優勝を誇る宮城・常盤木学園高校は11年振りの女王奪還を目指している。その正GKとして戦うのは静岡の実家から離れ、寮生活を送る佐々木心さん(3年)。GK歴はわずか1年半という異色の経歴を持つプレーヤーだ。
SBとして入学した心さんだったが、入部2週間で足首を骨折、突然のオファーは、病院からの帰り道だった。
「先生から学年にキーパーがいないし、身長が高いからGKをやってくれないかと誘われた。チャンスが貰えるならそっちの方が良いかなと思った」と彼女は転機を振り返る。
高校2年でGKに転向 1年半でスタメンに
怪我から復帰した、高校1年生の冬から本格的にトレーニングに向き合った。華奢だった身体は、チームメイトも評価する程、大きくなった。前回大会でベンチ入りを果たすと、165センチの身長を活かしたセービングと、チームを盛り上げるコーチングを武器に強豪の正GKの座を勝ち取っただけでなく、卒業後には、なでしこリーグ1部のバニーズ群馬FCホワイトスターに加入を決めた。
5人きょうだいを女手一つで育ててくれた母
慣れ親しんだポジションからGKに挑戦し、未来を勝ち取った心さん。彼女には、最後の選手権を前に感謝を伝えたい人がいる。それは、5人きょうだいの心さんをひとり親で育ててくれた母・真美さんだ。佐々木親子は高校進学を巡り、意見が対立した事があった。
真美さんは「家庭の事情もありもっと近い所でも良い所があるんじゃないの?と話を振っていたけど、頑として聞かず。自分はここに入りたいって」と当時を振り返る。5人の子供たちを育てることで精一杯。家庭の事情は分かっていても心さんは常盤木学園の入学を諦められなかった。
「金銭面で5人きょうだいの一人にお金を掛けられなかったから、最初は入学を反対されていた。でも、誰かに憧れられるサッカー選手になる目標に近づくためなら、この意志を曲げたくなかった」
そんな娘を見て真美さんは決意した。「ここで私が腹を括らないとだめだと思って。それが無かったら今がないと思っているので、当時の選択は、本当に間違っていなかったと思う」。真美さんは金銭面での苦労を承知の上で、心さんの意思を尊重し、常盤木への進学を認めた。今は、トラックドライバーとして生計を立て、心さんの夢を650キロ離れた静岡から支えている。
進学を認めてくれた母への感謝の想い
選手権1週間前、久しぶりの親子の会話。心さんは3年間の感謝をお母さんに伝えようとすると、伝えたいことがありすぎて、言葉につまり中々喋りだすことができない。心さんの目は次第に潤んでいく。
真美さん:いいよ。ゆっくりで。
心さん:
入学する前に喋らない時期があって、入学できるか分からなかったけど、自分の意志を尊重して常盤木に入れてくれた。最後の選手権はちゃんと優勝して、恩を返したい。
真美さん:やったー。頑張ってください。
娘の姿を見て、真美さんも涙が溢れる。
真美さん:
家庭環境のせいで常盤木に行かせられないと、自分が意地になって言っていたら、多分今がなかった。当時の選択は、間違っていなかった。そう思いたいから、最後の選手権も頑張って。
心さん:はい。笑って追われたらいいかなって感じ。
真美さん:勝っても負けてもね。
最後は笑顔で終わる。入学、ケガ、ポジション変更と決して順風満帆ではなかった高校生活だが、支えてくれた母と交わした最後の約束を胸に、心さんは選手権に挑む。














