30日に兵庫県で開幕を迎える第32回高校女子サッカー選手権。

過去には宮澤ひなた(24・星槎国際湘南高校)や鮫島彩(36・常盤木学園高校)といったなでしこジャパンのメンバーも出場、これからの日本女子サッカー界を担う「なでしこの蕾」たちが日本一をかけ鎬を削る。青春をサッカーに捧げた女子高校生はそれぞれの想いを胸にピッチに立っている。
史上最多の優勝6回を誇る前回女王、静岡の藤枝順心高校。礼節を重んじる同校は100年以上の歴史を数え、割烹着を着ながらの校内清掃など様々な伝統がこの学校には存在する。

サッカー部にも長年使われる合言葉が存在しており、試合前、選手達は高らかに叫ぶ。「順心、NO.1」と。

そんな藤枝順心の注目選手は10番を背負うMF・久保田真生さん(3年)。チームの誰もがその明るさを認めるムードメーカーは1年生からスタメンを勝ち取り、大会通算9試合3ゴール。さらに17歳以下の日本代表にも選ばれている絶対的エースだ。「最後の選手権なのでたくさんチャレンジしてチームの為にたくさん走れるようにしたい。優勝します」と力強く語る彼女には一緒にピッチに立ちたい仲間がいる。 

それはDF・石野柚良(ゆら)さん(3年)。クラスや寮の部屋は違うが、常に一緒にいる久保田さんの大親友だ。1年からピッチで戦う久保田さんに対し、石野さんはメンバーに選ばれたことが無く、前回の優勝もスタンドから声援を送っていた。 
「去年の選手権で優勝して彼女にメダルをかけてあげた時が結構印象に残っている。その時一緒に試合に出たいなと思い始めた」と久保田さんは語る。

2人は一緒にピッチに立つという夢の為、お互いを支え続けた。「いつも絶対隣に真生がいてくれて、ずっと話を聞いてくれた。『一緒に選手権に出よう』と真生が言ってくれて、その約束があったので諦めずにここまで頑張ってこられた」と石野さんはこれまでを振り返る。
一方で久保田さんは「毎試合プレーでうまくいかなかったことをスタンドから柚良が見ていてくれて、色々アドバイスをもらうが、そういう時にもらう『大丈夫だよ』という言葉が毎回心に刺さっていた」と親友に感謝しているようだ。

2人にとって運命の日となる大会2週間前のメンバー発表。石野さんは選ばれる自信がないと言い、選手たちが作る輪の奥の方で小さくなってしまっていた。「真生、アイ、ヴィッキー…」監督がリストを読み上げ、30人しかない枠が久保田さんなど、共に頑張ってきた仲間の名前で次々と埋められていく中、13番目に石野選手の名前が呼ばれた。初のメンバー入りを称える仲間たちに囲まれ、石野さんは涙が止まらず。「大丈夫って言ったじゃん。がんばろ」と言う久保田さんの目にも光るものがあった。

これまではスタンドから見守るだけだった親友と、ピッチに立てるかもしれない。メンバー発表後、石野さんは「最初で最後の選手権だし、真生と約束してきたことは果たしたいし、2人でメダルをかけて写真を撮れるように頑張る」と笑顔で語った。「最後の選手権で、チームとしても、個人としても今までやってきたことを全部出して、最後2人でピッチにたってメダルを掛け合えたら」と話したのは久保田さん。高校最後の夢を果たすための最後の冬がやってくる。

*写真は、左から久保田真生さん、石野柚良(ゆら)さん