『チェンソーマン』『ファイアパンチ』などで知られる漫画家・藤本タツキによる青春漫画『ルックバック』が、『万引き家族』『怪物』などを手がけた是枝裕和監督によって実写映画化される(2026年9月11日 金 より全国公開)。

主人公の藤野を出口夏希、京本を蒔田彩珠が演じるW主演。監督・脚本・編集を是枝裕和が務める本作は、藤本タツキ作品として初の実写映画化となる。

多くのファンを持つ名作を、是枝監督はどのように受け止め、実写映画として形にしていったのか。その始まりには、品川駅での偶然の出会いがあった。

品川駅での偶然の出会い「仕事への前向きな気持ちを蘇らせてくれた」

是枝監督が原作『ルックバック』と出会ったのは、コロナ禍のある日、京都出張の帰りに新幹線で品川駅へ降りた後のことだった。

ふらりと立ち寄った書店で平積みになっていた単行本が目に入り、表紙に惹かれて購入。その日の夜、事務所で読み始めたという。

実写映画『ルックバック』への思いを明かした是枝裕和監督


是枝裕和監督
「ちょうどコロナを経て自分の仕事が全部ストップしたりしてということを経験していたので、(作品を読んだときに)何か背中を押されたというか。自分が関わっていく仕事に対する前向きな気持ちを、もう一度蘇らせてくれたみたいな気持ちを抱きました」

是枝監督が夜の事務所で一気に読み進めたという『ルックバック』のあらすじを、ここで振り返っておきたい。

――学年新聞で4コマ漫画を連載し、クラスメートから絶賛されていた小学4年生の藤野。しかしある日、不登校の同級生・京本が描いた漫画を目にし、その圧倒的な画力に打ちのめされる。

ひたむきに漫画を描き続ける藤野(出口夏希=左)と京本(蒔田彩珠=右)。


絵が上手くなりたい一心で漫画を描き続ける藤野だったが、その差は埋まらず一度は挫折。ところが卒業式の日、京本の家を訪れたことをきっかけに、京本が自分の漫画のファンだったことを知る。

漫画へのひたむきな思いで結ばれた二人は一緒に創作を始め、かけがえのない時間を積み重ねていく。しかし、そんな二人の日常を大きく揺るがす出来事が訪れる――。

物語の主人公である藤野と京本、二人が紡ぐストーリーを読む中で、監督の心に残ったのは、単に「創作をする人」に限られた物語ではないという点だった。

是枝裕和監督
「何かを作っている人を描いている物語だとか、そういうことに限定される話ではなくて。人が生きていて、自分とは違う才能を持った人と出会い、その人の背中を追いかけて走り、別れがあったり…。そういう時間って、みんな自分の人生の中にある気がするんです」

作品を読むことで、自身の人生にもあった時間を「思い出させてくれた」と振り返る。それほど心を動かされた作品だったが、この時点ではすぐに「映画化したい」と考えたわけではなかった。

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原作者・藤本タツキとの対面で決めた「映画という形を取るのが正しいアンサー」

実写化に向けて動き出す転機となったのは、原作者・藤本タツキとの対面だったという。

直接「描いていただいてありがとうございました」と感謝を伝えた是枝監督だったが、作品への感謝をどう形にするか――映画監督としての答えを模索し始めた。

是枝裕和監督
「きちんとお礼を形にするのであれば、僕は映画監督なので、これは映画という形を取るというのが正しいアンサーなのかなと」

藤本さんと会った帰りのタクシーの中でプロデューサーと話し、是枝監督は「それで覚悟を決めました」と振り返る。

こうして動き始めた実写映画『ルックバック』。是枝監督自身も「大好きな原作」と語るだけに、実写化にあたってはプレッシャーも感じていたという。

是枝裕和監督
「本当に僕も大好きな原作でしたし、原作のファンの方はたくさんいらっしゃると思うので、その方たちの思いを裏切らないようにというプレッシャーはもちろん感じていました」

ペンを走らせる「音」で刻む二人の成長、そして秋田の「豊かな四季」

では、藤野と京本という二人を実写映画でどう描くのか。是枝監督は、「せっかく実写化するのであれば、きちんと肉体を持った形で二人の人間を描きたい」と考えたという。

その表現の一つとして挙げたのが、二人が漫画を描くときに生まれる「音」だった。

是枝裕和監督
「彼女たちがペンを走らせることで生まれる音とか、その音の変化とか、重なりで二人の成長が描けるといいなというふうに考えていました」

部屋で漫画を描く藤野(出口夏希)と京本(蒔田彩珠)。筆記音の変化で二人の成長を表現している。


藤野と京本が漫画を描く中で生まれる筆記音。その変化や重なりによって、二人の成長を表現しようと考えたという。

そして、二人の成長を描くうえで、もう一つ大切にしたのが「季節の変化」だった。

撮影の舞台となったのは、原作者・藤本タツキが生まれ育った秋田県にかほ市。是枝監督は現地へロケハンに向かい、「4つの季節」を丁寧に撮影する構想を立てた。

是枝裕和監督
「ここで4つの季節をちゃんと撮りたい、その季節の変化の中に二人を置いてみたいというのが最初にあった構想だったので、すごく贅沢に四季を追って撮影させていただきました。本当に豊かな自然が撮れましたし、その変化の中で子どもたちがどんな成長を見せていくのかというのも、時間をかけて撮らせていただいたので、楽しい撮影でした」

四季を追いながら、時間をかけて撮影された『ルックバック』。その中でも、是枝監督が「ぜひ見てほしい」と挙げる場面がある。藤野と京本が初めて出会った後、藤野が田んぼの中を駆けていくシーンだ。

原作でも印象的に描かれているこの場面について是枝監督は、実写映画で表現するうえで「映像」と「音」の工夫を凝らしたと話す。

是枝裕和監督
「原作でもすごく印象的なコマとして描かれていて、そこをどういうふうに映像と音で表現できるかっていうことに、みんなすごく注力したので、ぜひそのシーンは見ていただきたいなと思います」

さらに、この場面では、音楽と撮影の方法にも工夫が凝らされている。通常は映画が出来上がってから劇伴を制作するが、今回は音楽を担当する坂東祐大に依頼し、撮影前にテーマ曲を制作してもらったという。その理由について、是枝監督はこう語る。

是枝裕和監督
「京本と出会った後の喜びが湧き上がるように、彼女の中から音楽が聞こえてくる演出にしたかったんです。そのため、作曲の坂東さんにお願いして撮影前に音楽を作っていただき、現場で音楽を流しながら走ってもらうという形をとりました。出来上がった映画からも、その臨場感が伝わると思っています」

二人が漫画を描くときに生まれるペンの音、そして、藤野の中から聞こえてくるように作られた音楽。「音」は、本作で是枝監督が大切にした表現の一つとなっている。

「一生懸命な背中は美しい」是枝監督が作品に込めた思い

是枝監督は藤野と京本という二人にどんな魅力を感じているのだろうか。

二人の魅力について尋ねると、是枝監督は、何かに一生懸命になっている人の背中を「美しい」と表現した。

是枝裕和監督
「人間として、何かに一生懸命になっている人の背中は美しいなと思います。この映画は、藤野と京本が何かに一生懸命になっている姿がずっと続いていく話なので、僕も現場でその背中を見ながら美しいなと思っていました。それが魅力じゃないですかね」

原作へのリスペクトを胸に、実写化へ挑んだ是枝裕和監督。「何かに一生懸命な人の背中の美しさを描きたかった」と語る。


漫画を描くことに情熱を注ぎ、かけがえのない時間をともに過ごす藤野と京本。是枝監督が原作を読んだときに「背中を押された」と感じた『ルックバック』は、実写映画としてどのようにスクリーンに映し出されるのか。二人が刻む時間と音、そして圧倒的な四季の映像とともに、ぜひ劇場でその物語を体感してほしい。

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【作品情報】

映画タイトル:『ルックバック』
公開日: 2026年9月11日(金)全国公開
出演: 出口夏希、蒔田彩珠
原作: 藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・編集: 是枝裕和
音楽: 坂東祐大
配給: K2 Pictures
コピーライト: ©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社