eスポーツでつくる、シニアと若者の世代間交流──新潟県三条市は、昨年度からスタートさせた「三条市eスポーツプロジェクト」を加速させている。高齢者の介護予防のみならず、シニアと学生をつなぐ「多世代のコミュニケーション・ツール」としてeスポーツを再定義し、「高齢者の生きがいづくり」と「まちづくり」を同時に動かしているのだ。

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背景にあるのは「高齢者の介護」という厳しい現実だ。三条市の高齢化率は33.6%と、全国平均よりも高い。そこで三条市は、「予防」に力を入れることを第三次健康増進計画(令和6年3月)で発表。「生きがいや充実感を感じる人ほど、健康状態がよい」という調査結果とともに、介護予防やフレイル(加齢に伴う心身の活力低下)予防のためには、「人との交流」と「社会参加の機会拡充」の環境整備が必要だとまとめている。

ではなぜ、介護予防を念頭においた「人との交流・社会参加」にeスポーツが選ばれたのか。

三条市福祉保健部 高齢介護課の佐藤育男課長


三条市福祉保健部 高齢介護課 佐藤育男課長
「eスポーツなら、誰もが参加できる。これにつきます。元気な高齢者はもちろん、膝が悪い方も、運動が苦手な方も、性別・年代・障がいを超えて多くの人が楽しんでいます。お年寄りにゲームは難しいかも、というのは、思い込みでしたね。フレイルを予防するためには、社会とのつながりを持ち続けることが一番大事ですので、コミュニケーションできる機会が生まれるのは、とてもいいことだと思っています」

このプロジェクトが動いたきっかけは、令和5年、地方行政と官僚とのマッチング制度を活用し、三条市が文部科学省の上田泰成さんを副市長(当時)に招聘したことにある。上田さんは、出向先の経済産業省でeスポーツの振興に尽力していた実績があり、着任当初から「多世代交流ができる」eスポーツの可能性に着目していた。

上田泰成さん(手前左)は2023年4月から2025年7月まで三条市副市長に着任。現在は東京の民間企業に所属し、一般社団法人新潟県eスポーツ連合の顧問も務めている。


上田泰成さん
「高齢者が社会と関わるインセンティブは、やっぱり人とのつながり。じゃあ誰と話すのが喜ばれるかと考えたら、お孫さんくらいの若い人との交流が一番嬉しいのではないかと。そうなると、若い人も楽しめる環境でないといけない。『そうだ、eスポーツの出番だ!』と思いました」

こうして、令和6年7月から「高齢者の介護予防」と「多世代交流」という2つの軸で、三条市のeスポーツプロジェクトがスタートした。地域の七夕まつりイベントを皮切りに、図書館のある複合施設を会場にしたeスポーツ体験会を「ぷよぷよeスポーツ(©SEGA)」などのソフトで数回開催。これらのイベントでは三条市立大学のeスポーツサークル「SCUe」の大学生が先生役を担った。その後、三条市の介護予防教室においても、地域の活性化に取り組んでいるNPO法人のスタッフを先生に計7回の体験会を実施した。

体験後のアンケートでは「楽しかった」「またやりたい」とeスポーツ体験そのものを歓迎する声が9割近くに上った。中でも三条市が手ごたえを感じたのは、「大学生が先生をした体験会」に参加した高齢者の自由記載欄だった。「eスポーツができた楽しさ」以上に「若い人とおしゃべりできて、楽しかった!」という感想が多くを占めたのだ。

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市民に開かれた「七夕まつり」でのイベントでは、ちょっとした「サプライズ」が生まれた。eスポーツイベントの参加者として集まった地元の高校生たちが、運営側の市職員に混じり、親子連れなどの参加者とコミュニケーションをとり始め、ゲームを教え始めたのだ。まさに、eスポーツが自然発生的な地域コミュニケーションを生んだ瞬間だった。

彼らは、通う高校も出身中学校もバラバラだが、三条市内の「ゲームセンター」でつながっていた5人グループだった。イベント終了後、会場で知り合った上田副市長(当時)のインスタグラムアカウントに「次の会もあったら、参加していいですか?」とDM(ダイレクトメール)を送信。副市長にいきなりDMという、現代の高校生らしいコミュニケーションに、三条市側は驚きつつも喜び、以後、彼らは高齢者向けeスポーツイベントのたびにボランティアとして手伝いに来てくれるようになる。若者にとっても、「ゲームを通じて誰かとつながる楽しみ」が生まれていたのだ。それは、対象が高齢者でも変わらなかった。

eスポーツイベントの楽しみについて語る増田叶弥さん


増田叶弥さん
「楽しかったんですよ!自分たちが好きなゲームを、お年寄りの方も楽しんでくれる姿をみてるだけで。自分の好きなゲームが広がっていく感じが。あと、僕らが社会に関われてるんだなぁ、というところも、嬉しかったですね!」

永井蒼冴さん
「(当時の)副市長へのDMをきっかけに、ありがたいことに、また呼んでもらえて。僕らが教えたことに、お年寄りの方が笑顔で『ありがとう』って喜んでくれるんですよ!それが嬉しくて」


高校生から手ほどきを受ける高齢者も、もちろん大喜び。「高校生と話すなんて、何十年ぶりです!だから、いいもんだなぁと思って。また機会があったら、参加したいです!」

高齢者にとっては、まさかできるとは思っていなかったゲームが、孫ほど年の離れた若い人からの手ほどきを受けて「できた!」こと。一方、高校生たちにとっては、自分たちの好きなゲームを、高齢者も「面白い」と感じてくれて、楽しんでくれたことが嬉しかったようだ。それぞれが感じた肯定感を起点に、今まで体験したことがない、ワクワクした世代間コミュニケーションが始まる。それが新鮮で、楽しい。ボランティアとして参加した高校生たちは、自分たちの活動が社会に役立っているという実感も、しっかり感じていたようだ。

ボランティアも大歓迎。三条市の体験会で世代を超えてeスポーツを楽しもう


このプロジェクトに関わって何か変わった?と高校生に問いかけたところ、皆一様に深くうなづいて、答えてくれた。

坪井涼輔さん
「高齢者への向き合い方が変わりました。ゲームの合間に、いろんなことをしゃべります。最初はうまく話せなかったけど、回数を重ねたら、今では最初から笑顔で話すことができるようになりました。この前は麻雀の話をしてくれて(笑)。世代ギャップもそうなんですが、その人にしか聞けない話が聞けるのって、面白いですよね!」

大鷹悠斗さん
「なかなかできない体験をさせてもらっていると思っています。僕はもとから三条が好きなんですが、これからどう生きていくにしても、貴重な体験になったのは間違いないですね」

左から、大鷹悠斗さん、永井蒼冴さん、増田叶弥さん、坪井涼輔さん


2025年度、三条市ではもっと多くのシニアにも体験してもらおうと、公民館や介護施設での体験会と並行し、三条市下田地区にある大型温泉施設「いい湯らてい」でのeスポーツ体験会や、年度末には三条市立大学を会場にした「多世代交流eスポーツ大会」の開催も予定している。「大会」では、大学生と高齢者がタッグを組んで「協力プレイ」をするなど、世代コミュニケーションが勝利の鍵を握るという仕掛け・演出も用意されているそうだ。

話したことがない人と、話す。自分の年齢の3~4倍、ときに5倍以上も年が離れた同じ地域の人と話す。そこでは互いに“気づき”が生まれる。高齢者の「楽しかった!」もさることながら、高校生や大学生らが興奮気味に「楽しい」と言っていた姿が本当に印象的だった。eスポーツは様々な世代を笑顔にする。地域をつなぐ、優秀なコミュニケーション・ツールになりうる。

高齢者の介護予防として始まった「地域のeスポーツ」が、地域の若者に「他者への想像力と共感力」を育むきっかけを与えている。それは郷土愛の育成や「まちづくり」にもつながっているように思われた。これからも、三条市のeスポーツの取り組みに注目していきたい。

■三条市下田「いい湯らてい」での「eスポーツ体験会」
開催日時:2025年11月8日(土) 10時~11時30分(予定)
会場:三条市下田 八木ケ鼻温泉「いい湯らてい」 新潟県三条市南五百川16番地1 
参加費:無料(ただし、いい湯らていの入場料 大人900円、小学生以下600円が必要)
参加申し込み:不要、現地での申し込み順
対象:65歳以上の方と、そのお連れのご家族・お仲間。三条市民以外の方も参加可能。
https://www.city.sanjo.niigata.jp/soshiki/fukushihokembu/koreikaigoka/kaigohoken/19452.html
問合わせ先:三条市福祉保健部 高齢介護課 介護保険係 電話:0256-34-5476 (直通)