イランは攻撃せざるを得なかった。シリア・ダマスカスで在外公館が攻撃されたと主張する以上は報復しなければ顔が立たない。保守強硬派中心のライシ政権では尚更だろう。
一方で、イランがイスラエルを直接攻撃することについては疑問視する声が多かった。これまでのイランの戦略は「アメリカやイスラエルと対立はするが、戦うのは国境の外」が基本だったからだ。それゆえ過去も「レバノン、イラク、イエメン、シリア、パレスチナに存在するイラン代理勢力が、中東にあるアメリカやイスラエルのアセットを攻撃する」というパターンが中心であり、イスラエル国内(そしてもちろんアメリカ国内)への直接の攻撃は避けてきた。イラン国内への軍事行動を招きかねないからだ。
ただ「ではイランはどこを攻撃するのか」は、今ひとつ見えてこなかった。同じレベルの報復をするならイスラエルの在外公館を狙うことになるが、駐在国の反発を招く。中東海域でイスラエル関連の船舶を攻撃することはできるだろうが、それだけでは「弱い」。結局イランが選んだオプションは、イスラエル国内を狙うという前例のない、かつ数としてもかなり多い、しかし、一方である程度抑制的にも見える攻撃だった。
イラン革命防衛隊は「ドローンやミサイルを発射した」と発表した。その時点で着弾までにはまだ時間があった。意図については測りかねるが、イスラエルおよび周辺に展開するアメリカ軍などの能力をもってすれば、その多くが撃墜可能であり、イスラエル国内のシェルターもしっかりしているのはイランもわかっているだろう。実際、日本時間14日正午時点で明らかになっている被害は大きくはない。国連のイラン代表部は早い段階で「国連憲章にのっとった自衛行動」だとして正当性を主張しつつ、攻撃が一旦終わったことを示唆した。「今回はここまでで止めるので」というアピールのようにも見えた。アメリカには介入しないよう釘を刺すのも忘れなかった。
対して、イスラエルのネタニヤフ政権。何年にもわたり、国内外を問わず、繰り返しイランの脅威を訴えてきたネタニヤフ首相にとって、今回の攻撃は(それが“脅威論”のメインであるイランの核開発とは直接関係なかったとしても)「自分は正しかった」と言えるものではある。国内にこれだけドローンやミサイルが飛んできたので、イスラエルとしても何らかの反撃はするだろうし、ネタニヤフ氏はこの状況をイラン国内の軍事目標を攻撃する好機と捉える可能性もある。イランとの爆撃の応酬は、限定的にせよ、内外の関心をガザの人道状況や人質家族のデモから移す効果もあるだろう。
そもそもダマスカスへの攻撃をする段階で、イランの報復は織り込み済みだっただろうが、イランの攻撃規模が確定したことを受けて、イスラエルはどんな軍事行動に出るのか。関係が悪化しているアメリカのバイデン政権の自制要請はどれくらいの効力を持つのか。ネタニヤフ氏の次の一手が重要となる。
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