サントリーは健康・エンタメ界の注目株に

みなさん、「サントリーは飲料メーカー」なんて、決めつけてはいませんか。世界の舞台ではいまや、サントリーは業種を超え、「健康・エンタメ界」の未来を切り拓くカンパニーとして注目されています。米・ラスベガスでこのほど開かれた世界最大のテクノロジー展「CES」を見てきた“電気店の息子”SBSアナウンサー牧野克彦がリポートします。

サプリ事業から新ビジネス生む

測定器はA3程度の大きさのゴム製シート。下にセンサーが入っている

サントリーは、簡単に歩き方や姿勢を判定できる「世界初」のテクノロジーを公開。A3用紙程度の黒いゴムシートの上で約30秒間、軽く足踏みなどをすると、歩き方や姿勢の問題点が画面上に出てきてきます。私は「偏平足で体の後ろに体重がかかりがち。足を着く際に内旋(いわゆる内股)が強いので気を付けましょう」という結果。

いままでは、専門家が長時間観察するからこそ分かったようなことがわずかな時間で判明する。これは、同社が膝用サプリの効果検証で、サプリを飲んでいる人と飲んでいない人の足データを収集してきたことを生かした新規事業でデータを自社のサプリ開発のためだけでなく顧客の健康にも役立てようという取り組みです。

1日中、靴を履きっぱなしの欧米には「足病医」といわれる靴のインソールを処方する専門医がいます。今後、テクノロジーが医療の弱点を支えるかもしれません。同社は来年の実用化に向けてジムや医療機関との提携を目指しています。

乾杯にもっとエンタメを

世界中のバイヤーが「アメイジング!」と叫んでいたのが、「液体中に液体で絵や文字を描くテクノロジー」です。ブースでは、ロボットアームが透明な液体を”キャンバス”にイカ墨でダイヤモンドや木の絵を描写。

細い管の先から出るイカ墨で描きます

実用化すれば、キャラクターを描いたジュースをテーマパークで販売したり、結婚式でシャンパンの中に「HAPPY WEDDING」とメッセージを記したりと飲み物が登場するシーンでのエンタメ性が高まります。ラテアートが3次元になったような感覚でおもしろい!しかもロボットが描くので表現が緻密です。

液体の比重の違いを応用しているそうです

なぜ、同社からこうした技術が次々と生み出されるのか。開発者の方々に伺うと、「会社の『やってみなはれ』精神ですかね」という答えが返ってきました。創業者 の精神は今も脈々と受け継がれているようです。

センサー企業に変貌するTDK

TDKのブース

分野を超えて進化する日本企業は、サントリーだけではありません。私は子どもの頃ラジオが大好きで「エアチェック」(ラジオの放送を録音すること)をよくしていました。電気店を営む父に「TDKのハイポジ90分、買ってきて!」とよく頼んでいた記憶がありますが、アナログ世代には「TDKと言えばカセットテープ」というイメージが強くあるのではないでしょうか。

同社が今後注力するというセンサーを応用した配膳ロボ。 斜面を上る際に傾斜の角度を感知し、上に載せたワイングラスの水が こぼれないようにできる世界トップクラスのセンサー技術とのこと。

カセットテープで世界に名をはせたTDKですが、培った磁気技術に加えて、2016年以降次々と世界のセンサーメーカーを買収。2019年からはベンチャー企業への投資も行うなど、ここ数年で大きく業態を変化させてきました。

ARの普及に不可欠な“グラス”を改善

軽く見やすくなったARグラス

重く、かさばり、かけ心地がよくないことからなかなか普及が進まないARグラス(拡張現実眼鏡)ですが、同社はレーザーモジュールを従来の10分の1サイズと超小型化する事に成功。重さの問題を大幅に解決しました。

ARグラスをかけると、現実に見えているものと、目の近くに描かれた仮想空間両方に焦点を合わせなければならず、ピント調節が難しいという課題がありました。

同社の眼鏡は目の網膜に仮装空間を直接レーザーで描く技術によって同時に焦点を合わせる事が可能。次世代部品開発部の担当者は「本物のARグラスがいよいよ完成した。ARグラスの普及に繋がる」と自信をのぞかせていました。

「変化に適応したものだけが生き残るのだ」

かつて、カセットテープで世界的に脚光を浴びたTDKはいま、世界の最先端商品に欠かせない技術を開発することで静かに輝いていました。自社の可能性を探ろうと分野を超えて挑戦を続ける日本企業。

「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化に適応したものだけが生き残るのだ」

ダーウィンの名言は現代のビジネスシーンにおいても生きています。