国連が掲げる「持続可能な17の開発目標」のうち14番目の「海の豊かさを守ろう」を取り上げます。
青いはずの海を真っ赤に染める「赤潮」。

工業廃水などに含まれるリンや窒素が増えすぎることによって起きる現象で、魚の大量死を招きます。
一方で色が薄くなった養殖のり。赤潮とは逆に、リンなどの物質が減りすぎたことが色落ちの原因です。

このように海がきれいになりすぎることを=「貧栄養化」といい、生態系に大きな影響を及ぼします。
この「海の栄養」について考えるきっかけをつくろうと、金沢大学の学生があるゲームを考案しました。
金沢大学の学生がおよそ1年かけて製作したこちらのボードゲーム。

プレイヤーは自治体のトップとしてまちづくりに取り組み、移住者と養殖したのりをより多く獲得したプレイヤーが勝ちとなります。
移住者を獲得するため、自分の街を工業地にしたり都市にしたりできますが、選んだ行動によっては周辺の海水の汚染度が変わるという仕組み。
人間にとっての「暮らしやすさ」と「海の豊かさ」の両立が試されます。
考案したのは地域創造学類4年の栢場瑠美さん。

授業で環境について学ぶ中、瀬戸内海で実際に起きたある問題に着目しました。
金沢大学地域創造学類・栢場瑠美さん「瀬戸内海での『貧栄養化』の問題を知って興味を持った。」
高度経済成長期、産業排水や生活排水が大量に流入したことで、汚染が進んだ瀬戸内海。
一時は「瀕死の海」と呼ばれるほどでした。
1970年代に「きれいな海」を目指した取り組みが始まりましたが、水質改善によって海中の窒素やリンが減少。
海がきれいになりすぎる=「貧栄養化」が進み、やせた魚が多くなったり、「養殖のり」が色落ちしたりと、かえって生態系のバランスが崩れてしまったのです。
栢場瑠美さん「私は単純に『海はきれいなほうがいいな』と思っていたが、実際はもっと複雑で、きれいすぎてもだめということに衝撃を受けた。色んな人に『豊かな海って何だろう』というのを考えてもらえるようなゲームが作れたらなと思って。」
ゲームは高度経済成長期をイメージした前半戦と現代・近未来を想定した後半戦に分かれています。
MRO・兵藤アナもゲームに参戦します!

前半戦、プレイヤーは工業地域や都市を作り、自分の町を自由に開発していきます。

ゲーム作りを監修した 金沢大学人間社会研究域 人間科学系・林直樹准教授「昔は水質なんかあまり気にせずに人が入ってきていた時代があったが、(他の人と)同じことをしていると(移住者の)取り合いに負けてしまう。周りの様子も見ながら個性ある町を作っていく。」
自分の選んだ行動によって自分の町の海と隣り合う町の海の汚染度が変化していきます。

林准教授「海の汚れを通じて隣と関連しあっているのが肝。自分はきれいな海のある町を作りたくても隣が工業化するとそうはいかない。」
栢場瑠美さん「高度成長期が終わりました。ということで移住してきた人の駒を裏返してください。ちょっと老けています。

時代が進んだということで、より人間の望みも高度化していって、(↑写真の住民は)水質が6~11のレベルを要求している人たちになる。このぐらいきれいじゃないと住みたくないなという人たち。後半の町づくりが終わった後に、水質がこの間のレベルになっていなかったら流出してしまう。」

兵藤アナ「このレベルに合うように自分の町を変えていく必要があるんですね。」栢場瑠美さん「もしくは全員捨てて新しい人を取れるように開拓していく」
現代や近未来を想定した後半戦は水質を意識した町づくりの見直しが必要に。
このままでは私の町から住民が出て行ってしまうので、汚れた水をひたすらきれいにしていく作戦に出ます。

兵藤アナ「水質をきれいにしたいので町に排水処理場を建てます。」
隣の学生「工業化をします。水質も汚くなる。」
兵藤アナ「あ、私の海も汚くなる。せっかくきれいにしたのに…隣の海に影響があるってことですね。」
後半の町づくりが終わり、いよいよ住民と養殖のりの集計です。
作戦が成功し、4人の中で最も多い7人の住民を獲得することができましたが…。
水質を下げ過ぎてしまったことで養殖のりが2枚しか育たず、隣で町を作っていた学生に負けてしまいました。
水がきれいすぎたためのりがうまく養殖できず…
栢場瑠美さん「町づくり自体には正解も不正解もないので、自分の思ったようにできればそれが一番いい形かなとは思います」
現実で起こりうる現象を反映させることにこだわったというこのボードゲーム。
ゲームを通して考えを深め、現実の問題に向き合って欲しいという学生の思いが込められています。
林直樹准教授「現実社会で失敗はできないが、ゲームの中で安心して失敗できる環境の中でたくさんゲームの中で失敗してもらって、建設的に未来を話し合うそんなふうにつながっていくといいと思う」
栢場瑠美さん「閉鎖性海域をテーマとしているので七尾湾のほうの子どもたちにもやってほしいし、子どもだけではなく、結構考えるゲームなので、大人にもやってほしい。ゲームの場だけではなく海への関心を広げられるようにしたい。」