長崎県平戸市の温泉リゾート「サムソンホテル」が、人気動画クリエイター集団「M.S.S Project(以下、MSSP)」を起用した新CMの放送をスタートする。
仕掛けたのは、今年4月に就任したばかりの元アナウンサーという異色の経歴を持つ同ホテルの新社長だ。
シニア層の利用が中心だったホテルが、若年層に支持を得る彼らを起用した狙いとは。笑いに包まれた撮影現場を取材し、同ホテルが目指す新たな展開を聞いた。
異色のコラボが実現。リゾートホテルで始まった新たなCM撮影
「すぽーーん!」
「限界突破!」
「おいおい、豪華すぎんだろ……」
きらびやかなシャンデリアとレッドカーペットが目を引く大階段、海を見渡す露天風呂、種類豊富な料理が並ぶバイキング会場――。館内のあちこちで、賑やかな声が響き渡る。
テレビでよくあるような温泉やグルメレポートとは一味違う、独特のトークとテンポ。引き込まれるような撮影現場からは、ホテルのスタッフや撮影クルーからも思わず笑いがこぼれていた。
長崎県平戸市「サムソンホテル」で新CMと動画の撮影に臨んだのは、ゲーム実況・音楽制作集団「M.S.S Project」(以下MSSP)の面々だ。
メンバーは、FB777(エフビースリーセブン)、KIKKUN-MK-II(キックンマークツー)、あろまほっと、eoheoh(えおえお)。彼らが運営するYouTubeのメインチャンネル「M.S.S Project ゲーム」の登録者数は33万2千人(2026年7月現在)。さらに、音楽や実写企画を発信する「M.S.S Project ライブ」も18万9千人の登録者を抱える。
彼らの活動はネット上のみにとどまらず、音楽イベントの全国ツアーや武道館公演でも、多くのファンを動員。「中二病精神を捨て忘れた四十路のピーターパン」を自称する彼らが織りなす、華やかな音楽ステージやマニアックなゲーム実況、そして、行き当たりばったりで笑いが絶えない料理動画――。そのギャップに富んだすべての活動が、彼ら唯一無二の魅力だ。
海に面した大きな窓いっぱいに広がる景色を前に、般若のお面がトレードマークのあろまほっとさんが普段の毒舌な語り口とは一転、真剣な眼差しでつぶやいた。
あろまほっとさん
「海が一望できる絶景がいいですね。平戸城も見えるし、海岸の地形にも動きがあっておもしろい……」
メンバーたちが思わず見入ったこの美しい景色こそ、サムソンホテルが誇る最大の魅力の一つだ。
同ホテルは、深い青が印象的な平戸瀬戸と、緑豊かな平戸島を望む絶好のロケーションに位置する。2008年の創業以来、自家源泉の天然温泉や、地元の新鮮な食材をふんだんに使ったバイキングなどの充実したサービスで、九州エリアを中心に多くのリピーターに愛されてきた。
そんな地域に根差したホテルで今年(2026年)4月、新たにかじ取り役となったのが、代表取締役社長に就任した村山仁志さんだ。
実況動画のような「飾らないPR」を。元アナウンサー社長がYouTuberを起用した狙い
村山仁志さんは同年3月まで、地元・NBC長崎放送のアナウンサーとしてテレビやラジオの人気番組を担当。さらに小説家としての顔も持ち、エンターテイメントへの造詣が深い。しかし、シニア中心の客層から離れたYouTuberをCMに起用するのは、ずいぶん思い切った決断に見える。
サムソンホテル 代表取締役社長 村山仁志さん
「多くの視聴者に直接発信しているYouTuberは、従来の芸能人や有名人よりも、一般のお客さまに近い存在だと考えています。実況動画のようなリアルな反応を通じて、ホテルの魅力を伝えてもらえたらと考えました」
そもそも今回のMSSP起用には、確かな「実績」があった。
きっかけは5年前、同ホテルの熱烈なMSSPファンであるスタッフが発案した集客企画でメンバーをホテルに招待したところ、彼らが滞在する様子を収めた動画の再生回数は30万回を突破。それ以来、ホテルはファンの間で「聖地」と呼ばれるようになり、今なお多くのファンが足を運ぶ場所となっている。
今回のCM起用は、そうしたファンとの絆や成功体験という背景があって実現したものだ。
また、今回制作されたCMは「温泉篇」「客室篇」「食事篇」「館内篇」「クルージング篇」の5本。長崎、佐賀、熊本、福岡、山口の5県で放送が予定されており、これまでMSSPを知らなかった視聴者にとっては、テレビCMらしからぬ独自の賑やかさや空気感が、ホテルに関心を持つ新鮮なフックとなりそうだ。
村山社長としては、ネットカルチャーの文脈を持つインフルエンサーに魅力を発信してもらうことで、これまでとは異なるコミュニティへの波及力にも期待を寄せる。
村山社長
「若者層へのPRだけでなく、このホテルが平戸に根差した『本物』を提供していることを、多くの方に知っていただきたいのです。温泉の質の高さも食材の豊かさも、お風呂や料理の写真を見るだけでは違いがわかりづらく、いつももどかしい思いをしていました。MSSPの皆さんには、予想以上に表情豊かに楽しんでもらえたようで本当に嬉しいです」
自家源泉の「美人の湯」と、旬の地物バイキング
サムソンホテルの温泉は、平戸地区では唯一の自家源泉によるものだ。ホテル敷地内の地下約1600メートルから1日に150トンほどを汲み上げ、加水せずにそのまま使用している。「含鉄ナトリウム炭酸水素塩泉」の湯は、かすかな濁りととろみがあり、「美人の湯」として古くから親しまれてきた。
温泉の魅力を伝える「温泉篇」のCMは、日々筋トレを欠かさないという引き締まった肉体美を持つKIKKUN-MK-IIさんが担当。海を挟んで平戸島まで見晴らす展望露天風呂が深く印象に残ったようで、撮影時だけでなく滞在中も訪れて湯船に浸かっていたという。
※撮影のためタオルを着用
温泉とともに高い人気を誇るのが、地元産の食材を中心に提供するバイキング。特に魚介類は、ホテルから直線距離で約1キロの場所にある平戸魚市から仕入れている。「食事篇」を担当し、釣りが趣味というFB777さんも、その新鮮さと魚種の豊富さに驚きを隠せず、箸が止まらない様子だった。
バイキング会場には、地元の新鮮な海の幸から、長崎名物の郷土料理まで、常時50種類ほどの料理が並ぶ。
FB777さん
「魚介類だけでなく、おでんもうまいぞって気づきました。出汁の味がものすごく染み込んでいて、お酒ともよく合うんです」
夕食だけでなく朝食もバイキング形式のため、ホテル滞在中は好きなものを好きなだけ楽しむことができる。
展望台から見渡す絶景と、客室に残るファンとの絆
平戸は古くから、貿易や大陸へ渡る際の拠点として栄えた街だ。唐へ向かう空海が立ち寄り、フランシスコ・ザビエルが布教に訪れ、近松門左衛門の「国性爺合戦(こくせんやかっせん)」のモデルとなった鄭成功(ていせいこう)が生まれた歴史の舞台でもある。
ホテルからは平戸城や復元されたオランダ商館、平戸の街並みも見え、ロマンを秘めた大パノラマが広がっている。
特に地上約45メートルの屋上展望台は、心地よい海風を感じながら、目の前を遮るもののない景色に没入できる特等席だ。
eoheohさん
「通り過ぎる船、鳥が羽ばたく姿……リラックスしてます。いつまでもここにいられそう……」
そんな展望台からの絶景を、プライベートな空間で心ゆくまで独り占めできるのが、同ホテルの誇る客室だ。
コンセプトや色調も様々にデザインされた客室は、全室オーシャンビュー。通常のツインルームでもゆったりとした設計で、特別室はキッチンやリビングスペースを備えたスイートルーム仕様となっている。ここでは村山社長も参加してのCMシーンのほか、配信用のアナログゲーム対決動画の収録も行われた。
客室のキャビネットには、かつてここを訪れたファンが記念に残していったというMSSPの写真集が今も大切に飾られており、ホテルとファンの息の長い繋がりを覗かせている。
サブカルと地域資源で挑む、ホテルの新展開
こうしたファンとの絆を大切にする姿勢は、今年4月に就任した村山社長の温かいキャラクターにも重なる。
夕食会場にはできるだけ社長自身が顔を出し、軽快なトークで会場を沸かせ、ゲスト一人ひとりに声をかけて回る。その徹底した現場主義とおもてなしの姿勢は、まるで老舗旅館の名物女将を彷彿とさせる。
地元局のアナウンサーという異業種からの転身について、「不安もありましたが、案外向いていましたね」と笑顔を見せる村山社長。人を楽しませるという点では、大いに共通するものがあったのだろう。
村山社長
「このホテルにいる間は、おいしく、楽しく、気持ちよく過ごしてもらいたい。たとえ世の中が慌ただしく殺伐としていても、ここだけはほんわかと温かい空間にできれば。お客さまも、スタッフも、みんながニコニコ笑顔でいられることを願っています」
今後のさらなる展開として、まずは貴重なプラモデルやフィギュアなど、社長が長年築き上げてきた膨大なコレクションから約900点を展示する「村山社長のホビールーム」がオープン予定だ。モデラーとしての顔も持つ村山社長ならではの造詣の深さを活かし、サブカルチャーという新たな切り口から、これまでにない客層の開拓を狙う。

さらに、車やバイクを愛する人々が集う宿にしていきたいという構想もある。エントランスに飾られたドイツ製のバイクや、ロビーのクラシックミニカーなどはその未来に向けた伏線だ。
実は、ホテル周辺には素晴らしいドライビングルートが多く存在する。これまで広く知られていなかったその価値をアピールするため、今後はイベントの企画などを仕掛けていきたい構えだ。
もちろんファミリー層に向けても、キッズコーナーの充実や、自然豊かな周辺環境を生かした昆虫採集の場づくり、海へとつながる遊歩道の整備など、地域全体への貢献も見据えた計画を次々と描き出している。
そして、こうした数々の魅力的なコンテンツのなかでも、平戸の雄大な自然を最もダイレクトに体感できるのが、全長665メートルの真っ赤な平戸大橋の下を駆け抜けるクルージングサービス(※)。夏の期間のホテルの宿泊には「平戸瀬戸クルージング」もサービスされている。
※:特定日・条件付きで宿泊者向けに運航。2026年7月現在は燃料情勢により運休中
「ブラックサムソン号」と名付けられた船に乗り込み、白い波しぶきを立てて力強く進む海の上で、「うぉぉぉぉ〜」「マジで最高!」「もっと遠くまで行きたーい!」と、クルージング篇の撮影に臨んだMSSPのメンバーたちからも大きな歓声が上がった。
村山社長
「サムソンホテルにも平戸にも、まだまだ『余力』があります。地元の人が気づいていない魅力も伝えたいですし、地域全体の貢献にもつなげていきたいですね」
異色のアナウンサー社長が仕掛ける、人気インフルエンサーとのコラボレーション。ホテル単体のPRにとどまらず、サブカルチャーや地域の自然を編み直して発信する同ホテルの挑戦が、平戸の街にどのような新しい風と笑顔をもたらすのか、今後の動向に注目していきたい。
※M.S.S Projectの公式YouTubeチャンネルでは、今回のコラボレーション決定に伴う特別映像が公開中。詳細は下記リンクボタンから。
※サムソンホテルの新CMは9月1日から放送予定。