伝説となった、決断から「48時間の奇跡」──「その時、いちばん動ける藤田学園へ」の原点

2020年2月。まだ世界が新型コロナウイルスの正体をつかみかねていた頃、あるニュースが日本中を駆け巡った。横浜港に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での集団感染だ。国難ともいえる事態の中、政府からの要請を受け、迷わず応じたのが藤田医科大学だった。船内に残された無症状感染者および濃厚接触者128人を、開院前の藤田医科大学岡崎医療センターで受け入れるという決断を下したのだ。

驚くべきはそのスピードだった。要請の翌朝には対応を協議し、その日の午後には医師、看護師、事務職員が現地へ移動。ベッド以外の物資がない状態から、感染者と職員の動線をわけるゾーニングや、食事の手配、ゴミの処理方法まで、あらゆる準備を進めながら、活動開始からわずか48時間後の深夜には第一陣の受け入れを開始した。

通常なら数週間かかる準備を、たった2日間で受け入れた藤田医科大学。そこには「職種の壁」はなかった。事務職員も防護服を着て消毒作業に加わり、医師も看護師も全員が「目の前の命を守る」という一点で団結した。この圧倒的な機動力と一体感が、藤田医科大学のスローガン「その時、いちばん動ける藤田学園へ」を象徴する出来事として結実したのである。

未曾有の危機に挑んだ ダイヤモンド・プリンセス号受け入れ

「臨床」と「研究」の壁を壊す──患者のために、研究室と病院をつなぐ

医科大学には2つの大きな役割がある。一つは、目の前の患者を救う「臨床(りんしょう)」。もう一つは、まだ治せない病気のメカニズムや治療法を見つける「研究」。この2つの領域に携わる人々が力を合わせてこそ、現在と未来の医療を確かなものへと導くことができるという。

藤田医科大学の臨床力は研究を加速させている。大学に併設された藤田医科大学病院は、病床数1,376床、分院を合わせると約2,300床の国内屈指の医療体制を持つ。診療科は42科に及び、ありとあらゆる疾患や症状に応じた専門医師が最先端の医療機器を駆使して治療にあたっている。これら臨床の現場で蓄積された知見や膨大な診療に基づいた情報は、未来の医療をより良くするための研究に役立てられている。

しかし、一般的には、「臨床」と「研究」の間には見えない壁があると言われる。臨床医は「目の前の患者をどう救うか」に追われて時間の余裕がない。一方、研究者は数年から数十年をかけて疾患の病態解明や新たな治療法の発見に取り組んでいる。では、なぜ藤田医科大学は目的、時間、評価軸などが異なる臨床と研究が連携し協力しあいながら、新たな医療をつくることができるのか。それは、大学での研究が「研究のための研究」になりがちなところを、藤田医科大学では研究室と病院が同じ敷地にあるからこそ生まれる知見をいち早く臨床に役立てているからである。「臨床現場の困りごとを解決しない研究には意味がない」という実学重視の姿勢を徹底しているため、両者の距離が極めて近いのだ。

「臨床」と「研究」のさらなる連携強化へ──橋渡し研究支援機関として学外とも連携

「研究で生まれた新しい知見や技術を臨床へとつなぎ、診療の現場で見えてきた課題を研究に生かす」。藤田医科大学は、このサイクルを円滑に回すことで、基礎研究と臨床現場を密接につなげている。これを「トランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)」と呼ぶ。

この実績が国にも認められ、2024年から25年にかけて、文部科学省やAMED(日本医療研究開発機構)から数々の大型プロジェクトに採択された。特に「橋渡し研究支援機関」としての認定は、私立大学としては全国で2番目、医療系大学としては初の快挙となる。

単に藤田医科大学で生まれた研究の種(シーズ)を実際の医療(実装化)に活かすだけではなく、全国で実装化したいと考える研究者を支援して、臨床応用につなげるための橋渡しを行う支援拠点としての活動にも力を注いでいる。

【動画】医療の現在と未来を繋ぐ 橋渡し研究支援機関

未来の医療は「足し算」ではなく「チームの掛け算」へ──連携の力で、前例のない価値を生み出す

未来の医療をつくるのは、個々の能力ではなく「チームの掛け算」だ。

今、医療は、医学の知識・技術だけでなく、工学の技術やAI、データサイエンスに加え、病院経営、地域医療など、異なる分野を「立体的」に掛け合わせることで新しい価値が生まれる時代を迎えている。

これらが分野を越えて共鳴し始めたとき、足し算ではなく、予想もしなかったような大きな『掛け算』の力が生まれる。この連携の力こそが、「未来の医療」を作る、一番の近道なのだ。

【動画】臨床研究の最前線 藤田医科大学の医療イノベーション

未来の医療を変える4つの研究センター──日本を代表する研究拠点を目指して

具体的にどのような「未来の医療」を作ろうとしているのか。現在、藤田医科大学ではさまざまな最先端研究センターが稼働している。その中から、未来の医療を引率する4つのセンターの挑戦を見てみよう。

①【腫瘍医学研究センター】がんの「再発」を予知し、制圧する
日本人の2人に1人がかかると言われる「がん」。医療の進歩により「治る病気」になりつつあるが、それでも「再発」や「難治がん」の恐怖は消えていない。ここで取り組んでいるのが、「リキッドバイオプシー」という革新的な検査技術で、手術でがんを取り除いたとしても、目に見えないレベルでがん細胞が残っている可能性がある。これまでは再発して初めて気づくことが多かったが、この技術を使えば、血液や尿などのわずかな体液(リキッド)を調べるだけで、がん由来の遺伝子を発見できる。AIを駆使してデータを解析し、「再発の兆候」をいち早くキャッチする。そうすれば、手遅れになる前に先制攻撃(治療)ができるのだ。「がんを治す」だけでなく「がんにならない、再発させない」医療の実現を目指している。

がんに怯えない世界を目指す がん治療の未来を創る研究

②【精神・神経病態解明センター】脳とこころの謎に挑む
アルツハイマー病、パーキンソン病、統合失調症など、脳や神経に関わる病気は、いまだに原因が完全には解明されておらず、超高齢社会において、認知症などの問題は避けて通れない課題だ。藤田医科大学は、精神・神経病態研究拠点として文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択されており、全国25大学の採択校の中で医科大学としては唯一の存在である。このセンターでは、脳のメカニズムという「人類最大のフロンティア」に挑む。特徴的なのは「オープンファシリティセンター」という仕組みで、高額で特殊な最新鋭の研究機器を、学内の研究者だけでなく、外部の企業や他大学の研究者にも開放している。「脳とこころの病」という巨大な敵に対し、分野や所属の壁を越え、世界中の知恵を結集させて新薬の開発や治療法の確立を目指している。

脳・こころの謎に迫る最前線

③【国際再生医療センター】細胞治療の常識を変える「オーダーメイド」から「既製品」への挑戦
「再生医療」と聞くと、まだ先の話だと思われるかもしれないが、すでに実際の治療に用いられ始めている。特に注目されているのが「CAR-T(カーティー)細胞療法」という、患者自身の免疫細胞を取り出し、がん細胞を攻撃するように遺伝子を改造して、再び体に戻すという治療法だ。白血病などで劇的な効果を上げているが、問題はその価格。1回あたり約3000万円もかかる上、オーダーメイドのため治療開始までに時間がかかる。このセンターでは「誰にでも使える、既製品のような細胞製剤」の開発を進めている。他人の細胞(ユニバーサルな細胞)を使い、さらに拒絶反応が少ない特殊な細胞(ガンマ・デルタT細胞)を活用することで、大量生産が可能に。100分の1程度までの低価格化を目指している。超高級車並みの価格だった治療を、誰もが受けられる標準治療へ。その実現を目指して、再生医療の新しい可能性に挑戦している。

細胞のチカラで切り拓く 再生医療の革新を担う研究へ

④【感染症研究センター】次のパンデミックに備える
感染症研究センターは、コロナ禍で得た教訓を次の時代に活かすための研究所。今、世界が恐れているのは、ウイルスだけではない。「薬剤耐性菌(AMR)」という存在をご存じだろうか?抗菌薬が効かない菌のことで、このまま対策をしなければ、薬剤耐性菌を要因とする死亡者数は、2050年にはがんによる死亡者数を超えるとさえ予測されている。このセンターでは、ウイルス感染症だけでなく、この「抗菌薬が効かない菌」に対する新たな治療法の開発を急ぐ。また、ユニークなのは「腸内細菌」への着目だ。腸内環境を整えることで免疫力を上げ、感染症や様々な病気を予防するサプリメントの開発など、「病気になってから治す」のではなく「病気にならない体を作る」研究も進められている。

基礎と臨床を結び、未知の感染症に備える研究

日本の課題対応が世界のモデルになる──研究大学として未来に挑戦

日本は、世界で最も高齢化が進んだ国の一つである。高齢化はしばしば社会的負担として捉えがちだが、研究の視点に立てば、それは時代を先取りする大きな「チャンス」であり、重要な「役割」でもあった。

日本は、高齢社会という課題を世界に先駆けて経験する「課題先進国」である。予防医療、感染症対策、認知症への対応、健康寿命の延伸に向けた取り組みなど、高齢化の進展とともに、医療・介護の分野では多くの知見と実践が積み重ねられてきた。

それらを体系化し、新たな医療システムや予防・治療法として確立させることは、これから同様の課題に直面する世界各国にとって重要な「モデル」となり得る。ここに、日本の医療が持つ強みがある。

その歩みを具体的に体現しているのが藤田医科大学である。研究大学として、研究と臨床を往還させながら課題解決に挑み、その成果を地域へ、そして世界へと発信する。

そんな未来に向けて医学の進化を積み重ねていく
これからの藤田医科大学の取り組みに注目していきたい。