自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない最大の要因は、「人手不足」と「現場の抵抗」、そして「縦割り行政」である 。新たなツールを導入しても現場に定着しないという悩みが、全国で多発している 。その壁を突破したのが、仙台市の「BPR推進課」だ。その中心にあった武器が、NTT東日本の「AI-OCR(AIよみと~る)」。単なるツール導入ではなく、組織横断的な業務改革の足跡を追う。

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仙台市の全体DXと「BPR推進課」の役割

仙台市は将来的な人口減少や職員不足を見据え、市民起点での行政サービス向上を目指してDXを推進している。その推進役である2024年4月に発足した「BPR(Business Process Re-engineering=業務改革)推進課」は、単なるシステム導入部門ではなく、現場の業務フローそのものを見直し、改善を提案・伴走支援する部隊である。

仙台市BPR推進課 小田嶋一樹さん
「業務プロセスの見直しにおいて複数部署にまたがる課題が生じた際には、我々自ら現場に入り込みます。そして、デジタルツールを「丸投げ」するのではなく、業務を見直す意義を丁寧に関係者へ説明し、部署間の共通理解をしっかりと醸成しながらプロセス改善を推し進めることを徹底しています」


そんなBPR推進課が各部署の業務を紐解く中で浮き彫りになったのが、市民や事業者から提出される手書き帳票をデータ化するプロセスでの課題だ。庁内全体の改善において、「紙のデータ化」は極めて重要なウェイトを占めている。一方で、スマホやパソコンでのオンライン申請が困難な、高齢者や障害者の方への窓口として、紙媒体は残す必要がある。そのため、手書きの申請書類を効率よく読み取るAI-OCRの導入が進められた。

AI-OCR導入事例1:環境局 家庭ごみ減量課

環境局 家庭ごみ減量課では、町内会や子ども会などの市民団体が行う「集団資源回収」の事務処理において課題を抱えていた。これは地域で資源物を集めた団体に対し、仙台市が回収量などに応じて奨励金を交付する制度である。半年ごとの奨励金額の計算のために、回収事業者からは毎月約1,400枚(一日約70枚)もの手書きの「集団資源回収の実績伝票」が提出される。かつて、担当者が日々行っていたシステムへの手入力は大きな負担であった。そのため、実績伝票をPDF化し「OCR(光学文字認識)」でデータ化した上で、「RPA(ロボットによる業務自動化)」によりシステムへ自動入力する仕組みが導入された。

仙台市環境局 家庭ごみ減量課 金子凌さん
「これにより、手入力作業は解消されたのですが、従来のOCRは文字認識精度が低かったため、実績伝票が届いてからシステム入力が完全に終了するまでに、3回にわたる確認作業が必要でした」


1回目: 実績伝票と計量伝票(問屋が計量した正確な重量を記載した伝票)を突合し、修正
2回目: OCRで読み取ったデータと実績伝票を突合し、PC上でデータを修正
3回目:RPAでシステム入力したデータと実績伝票を突合し、修正

文字認識の精度を補うための度重なる確認作業は、依然として担当者の大きな負担となっていた。

BPR推進課は現場の業務フローの確認や見直しを行い、課題となっていた「OCRの文字認識精度の低さ」の改善を提案。ここで導入されたツールがNTT東日本の「AIよみと~る」である。このツールは、OCRにAIの技術を組み合わせたAI-OCRと呼ばれるものであり、文字認識の精度が96.71%(*)と飛躍的に向上しており、担当者ごとの多様な筆跡(クセ字)や訂正がある手書き伝票であっても、高精度で読み取ることができた。業務フローの見直しと精度の向上により、前述の1・2回目の確認作業が不要となり、RPAでデータ入力後の確認のみとなったため、作業時間を短縮することができた。

(*)NTT東日本の2018年8月~9月に異業種3社で行った、手書き文字を含む20,275文字での検証結果に基づく。

「AIよみと~る」の読み取り前後の資料写真

さらに、OCR+RPAを使用していた時とAI-OCRに切り替えた後を比較すると、確認作業の削減により年間約720時間が削減された。これにより、年に2回の奨励金を交付する繁忙期の残業軽減や、処理スピードの大幅な向上という大きな成果を上げている。

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AI-OCR導入事例2:太白区 保険年金課

太白区 保険年金課では、後期高齢者医療制度における「基準収入額適用申請」の処理業務において課題を抱えていた。これは、資格確認書の年次更新時に、被保険者等の前年収入状況に応じて窓口の負担割合を変更する業務である。確定申告書などの課税資料を基に、担当者が電卓を用いて1件ずつ手計算し、資料へ転記する作業が膨大であり、大きな負担となっていた。

仙台市太白区 保険年金課 穂積武仁さん
「具体的な作業フローは、主担当が目視で資料の情報を読み取って手計算し、副担当が二重確認するというものであり、ミスが許されないプレッシャーの中で約60時間の作業時間を要していました。さらに、年次更新時は他業務と併せて約20時間の残業が発生していました」


「子どもが小さいため早く帰りたい」という担当者の思いがきっかけとなり、BPR推進課へ業務効率化の相談が行われた。BPR推進課は、他部署での先行導入時に作成した「AIよみと~る」のマニュアルを活用。サポートをアカウント発行と都度の質疑応答に絞ることで、現場主導での自律的なツール導入・活用に見事成功した。

穂積武仁さん
「『AIよみと~る』導入後は、担当者が目視で資料の情報を読み取る工程がなくなり、作業時間の短縮や計算ミスの減少につながりました。さらに、AI-OCRで読み込んだ収入データをExcelに落とし込み、基準額の判定を自動で行うようにした結果、業務フローは大幅に改善されました。作業にかかっていた時間は従来の約60時間から約12時間にまで大幅に圧縮され、繁忙期に約20時間あった残業時間が0時間にまで減らすことができました」

2025年は試作として太白区のみでの導入であったが、2026年以降は庁内のグループウェアやTeamsのチャネルを活用し、処理件数の多い青葉区など他区の保険年金課へもこの成功事例を横展開していく予定だ。

このことは、先の「環境局 家庭ごみ減量課」の導入事例を通して、「AIよみと~る」の活用への心理的な壁が下がり、誰もがツールを活用できる環境や意識が仙台市の中で醸成されつつあることを示している。

横展開:TOHOKU DX GATEWAY 2025での発信

環境局 家庭ごみ減量課と太白区 保険年金課で得られた業務効率化の成功事例は、庁内にとどまらず広く外部にも公開されている。仙台市は自らが主催したイベント「TOHOKU DX GATEWAY 2025」において、「AI-OCRブース」を出展した。この出展には、他ブースの見学も兼ねて多くの庁内職員にイベントへの参加を働きかけ、市役所全体のDXに対する意識醸成を図るという庁内向けの狙いもあった。


こうした取り組みの背景には、自信を持って推奨できる自らの成功ナレッジを、他の自治体や地元企業にも積極的に展開したいという思いがある。実際、イベントには東北の多くの自治体が足を運び、前向きな導入検討に繋がるなど大きな反響があった。仙台市は自らの知見を共有することで、東北全体のDXの底上げを図る姿勢を力強く発信している。

仙台市目線でのNTT東日本のパートナーシップ

(左から)NTT東日本の三浦拓実さん、仙台市BPR推進課の小田嶋一樹さん、仙台市BPR推進課の森慎吾さん


BPR推進課がNTT東日本を変革のパートナーに選んだ明確な理由がある。それは、トライアルでの実際の操作を通じて実感した「読み取り精度の高さ」と「直感的な操作のしやすさ」が高く評価されたことだ。もちろん、行政機関として必須となる基幹ネットワーク対応など、高度なセキュリティ面が担保されていることも前提となっている。

そのうえで、導入を後押しする最大の決め手となったのが、手厚いサポート態勢である。初めて扱うツールには不明点がつきものだが、年中無休でいつでも問い合わせに対応してもらえる環境が、現場職員の不安払拭に直結した。NTT東日本は単なるツールベンダーとしてだけでなく、地域課題を深く共有し、伴走してくれるパートナーとして高く評価されているのだ。


DX推進の壁に悩む全国の自治体担当者に向けて、仙台市BPR推進課から力強いアドバイスが送られた。

「市役所の各現場には『このままでいいのか、ここは変えられるんじゃないか』などの考えがあると思いますが、忙しさや進め方が分からないことから、なかなか実行できない方が多いのが実情です。我々の使命は、そういった現場の声を取りこぼさずに、改善につなげていくことが役割だと思っています。AI-OCRの活用などで業務が楽になるという『小さな成功体験』は、担当者自身の自信となり、ほかの改善にもつながっていくと思っています。さらに役所には必ず『人事異動』があるため、成功体験を持った職員が別の部署へ行き、異動先でも新たな改善を行うことで、組織全体に良い流れが生み出されていきます。我々もまだまだ途中ではありますが、少しずつそういう流れができています。我々のような組織体系でやっているのも割と珍しいかと思いますが、ぜひ参考にしていただき、取り組みを進めていただければと思います」

NTT東日本 宮城支店は、パーパス「地域循環型社会の共創」のもと、自治体・企業のDX推進を幅広く支援している。生成AIをはじめ、業務デジタル化やデータ活用などの導入検討から定着・高度化までを伴走型で支援。通信インフラとICTの知見を生かし、地域に寄り添った価値創造と持続可能な社会の実現に貢献していく。

【動画】導入実例に見る成功に導くAI-OCR活用術