こどもの健やかな成長や結婚・妊娠・出産・子育ての支援をはじめとした「こども施策」を推進する行政機関として、2023年4月に発足したこども家庭庁。従来はいくつかの省庁にまたがっていたこども施策を一元化し、司令塔として総合調整を担う組織として設立された。掲げているのは、「こどもまんなか」というスローガン。これまで大人中心となっていた社会を、こどもや若者の意見を取り入れ、同じ視点に立ってこども施策を実現していくという新たな方針が込められている。
現在、こども家庭庁が進めるさまざまな施策のうちの一つが、「こどもまんなかアクション」だ。こどもや子育てを社会全体で応援できるよう、人々の意識を変えていく取り組みである。そして、その想いに賛同し、実際に活動する人々が、「こどもまんなか応援サポーター」(以下、応援サポーター)。応援サポーターは個人や団体、自治体など所属はさまざま。参加の輪が広がっており、国内各地の応援サポーター数は4170を超える。
全国の応援サポーターが集う、「こどものまわりのおとなサミット」
2026年2月6日、霞が関プラザホールにてこども家庭庁主催の「こどものまわりのおとなサミット2025」が開催された。“こどものまわりのおとな”とは、こどものために活動している応援サポーターのことだ。この日は応援サポーターの6団体が全国から集まり、活動発表をおこなった。
参加6団体の主な活動内容を紹介しよう。
宮城県石巻市の『ベビースマイル石巻』は、妊娠期及び0~18歳までのこどもとその保護者に対し、切れ目ない支援の実現を目指す。地域と連携しながら居場所づくりや訪問型の子育て支援、父親の子育て参加促進などを行っている。
高校生の「やってみたい!」に伴走しているのが、福島県白河市の『未来の準備室』。高校生は無料で利用できる「コミュニティ・カフェ EMANON」を拠点に、高校生と地域社会をつなぐ橋渡しをしている。
埼玉県の『埼玉りそな銀行』は、支店の空きスペースなどを利用してこどもの居場所を開設。企業のリソースをフル活用しながら、こどもと子育てを応援する。
少子高齢化が進む地域で、10代をまんなかにしたまちづくりの可能性を探るのが、石川県輪島市の『じっくらあと』。こどもの居場所「わじまティーンラボ」と医療機関「ごちゃまるクリニック」を核に、若者の成長を多層的に後押ししている。
愛知県豊田市の『JUNTOS』は多文化共生の地域づくりをしている。外国籍の住民が約6割を占める保見団地で、こどもたちの「やりたい、たのしい」という気持ちと自主性を尊重しながら多彩な活動を展開する。
宮崎県都城市の『南九州大学』は、キャンパスをこどもの居場所として開放。保護者や先生とは違う「ななめの関係」で、不登校などの課題解決に取り組んでいる。
各団体の発表内容は、グラフィックファシリテーションにて同時進行でボードに描き出され、鮮やかなイラストと印象的な言葉の抽出が、参加者の理解と思考を促した。
活動発表の後は、意見交換会へ。発表を聞いて気になった点や気付いたこと、活動を続けていくうえでのヒントなどが話し合われた。各応援サポーターの代表者だけでなく、その場にいたサミット参加者らも一緒になり、「こどもの声からイベントをつくると、こどもが元気になる。それが自分たちも嬉しい」、「こどもを軸に考えると、こどもと大人の関係がよくなっていく」、「支援ではなく一緒にやる。その考え方がサステナブルにつながる」など、活動する当事者ならではの意見が交わされた。
サミット閉会後、続いて「こどもまんなかアクション2025年活動報告」が行われた。自治体が主体となって開催する「リレーシンポジウム」が日本全国の42自治体で開催されたことやその様子、公式noteで20本のアクション関連記事が公開されたことなど、こども家庭庁の取り組みをはじめ、こどもまんなかアクションを通じて得られた意見、大学での開催も視野にさらにリレーシンポジウムを広げていく今後の展望などが報告された。
こどものためのアクションに、賛同する人を増やす!
こうした「こどもまんなかアクション」の意義や狙いについて、こども家庭庁成育局成育環境課長兼こどもまんなかアクション推進室長の安里賀奈子さんに話をきいた。
こども家庭庁成育局成育環境課長兼こどもまんなかアクション推進室長 安里賀奈子さん
「日本政府は、こどもを産み育てることに希望をもてる社会に転換するために『こども未来戦略』を策定しましたが、その際、様々な調査を参照したところ、こどもを産まない理由の中に“こどもを育てづらい社会だから”という声がありました。いくら子育てのための支援策を打っても、こどもや子育てにウェルカムな社会の雰囲気づくりにアプローチしないと心に届かないのではないかと考え、『こどもまんなかアクション』がスタートしました」
「こどもまんなか」の想いに賛同する人を増やすためには、社会の雰囲気を醸成することが必要だ。そこで、こども家庭庁ではそうした人々を「こどもまんなか応援サポーター」として、彼らの取り組みを広く発信している。
安里賀奈子さん
「こどものことを大切に考えて活動している人たちが実はたくさんいます。だからすでに『こどもまんなかがいいよね』と考えている人たちの存在と活動を私たちが発信して、賛同する人の輪がどんどん広がれば、一人一人の腑に落ちる形でこどもと子育てに優しい社会につながると考えています。そのために、皆さんに参加を呼びかけているのが、こどもまんなか応援サポーターです」
応援サポーターになるのはとても簡単だ。なにか“こどもまんなか”の取り組みをして、そのアクションを『#こどもまんなかやってみた』とSNSで発信することでなることができる。それ以外の手続きはない。応援サポーターになると、「こどもまんなかマーク」を使用することができたり、時にはこども家庭庁とコラボしてイベントを行う機会もあったりする。こども家庭庁では、そうした応援サポーターの動きをメディアを通じて発信したりと、活動の輪を広げるサポートを行っている。応援サポーターの活動事例は、こども家庭庁の公式ホームページでも紹介しており、すでにその数は210件を超えている。
「こどものまわりのおとなサミット」では、今回も多くのこどもまんなか応援サポーターが全国から集まった。
安里賀奈子さん
「どの活動でもそうですが、“継続は力なり”です。全国で活動を続けてきた皆さんの蓄積が、今大きな力になっていると感じています。そして、継続をする際に勇気をもらえるのがネットワークだと思っています。他の団体から受ける刺激で改めて自分たちの活動の意義が確認できたり、新たな活動の種が見つかったりしている方も多いと思います。また、インスパイアされて、何か自分でできることをやってみようと思う方もいらっしゃるかもしれません。サミットの内容は、YouTubeで同時配信しました。会場でのやり取りを聞き、『いままで一歩踏み出せなかったけれど、やってみようか』、『うちの地域でも生かせるかな』と思ってもらえれば嬉しいです。また同様に、こうした活動がさらに多くのこどもたちに届くように波及していってくれたら嬉しく思います。例えば、今回『ベビースマイル石巻』さんが、こどもには最初から力が備わっているから、力を注いであげるのではなくて、それをどのように活かすのかという観点で活動をされているとおっしゃっていました。こどもの力を信じてともに何かを作り出していく、これはまさしく『こどもまんなか』なことですし、こうした素敵な視点が、今回のサミットとその発信を通じてさらに広がっていくといいと思っています。このサミットから多くの人が様々な刺激を受けて、サミットがきっかけで誰かと繋がろうと思ったり、勇気を出して、まず何かしらのアクションを起こしてみようと思ったりと、最初の一歩のきっかけとなれば嬉しいですね」
こどもを一人の人間として捉え、声に耳を傾ける大切さ
こどもや子育てを応援する活動に取り組むのは、大人だけではない。ユース世代も、応援サポーターとして各地で活動を行っている。こども家庭庁ではアクションの一環として、「ユースのアクションサミット」も開催。また、リレーシンポジウムでは、学生レポーターを起用してレポート記事を公式noteで発信している。こどもたち自身の活動にフィーチャーし、リアルな声に耳を傾けるのは「とても大切なこと」と安里さんは力を込める。
安里賀奈子さん
「こどもを守り育てるという視点や取り組みは前からありますが、こどもの人権のうち、こどもの声を聞くということはまだ十分に浸透していないように思います。こどもも一人の人格を持つ存在であり、こどもたちも大人と同様に一緒に社会をつくる仲間です。『こどもだから言うことを聞きなさい』、『守ってあげるから従いなさい』ではなくて、こどもも一人の人間として尊重され、こどもの声が聞かれる社会でなければなりません。例えば、世の中には、こどものためを思う活動がたくさんありますが、それが本当にこどものためになっているのかは、こども自身の声を聞かないとわかりません。また、こどものための活動に限らず、こどもが関わる様々な場面で、こどもの声を聞くことで大人には見えていなかった問題に気づくこともできます。声を聞くことにより、取り組みの質を上げることができます」
ユース世代を含むこどもの声を聞くのは、こどものためだけではない。大人のためにもなり、さらには日本社会を健全にしていくうえでも必要だと安里さんはいう。
安里賀奈子さん
「こどもの声が聞ける人は、大人の声も当然聞くと思います。そうすると、大人の間のトラブルも減るのではないでしょうか。それから、自分の声を聞いてもらえる環境で育つことは、こどもの自信にもつながります。健全に育ち、自分の力を信じられる人がたくさんいれば、社会は安定します。日本の底上げを図れる取り組みだと思っています」
こどもまんなかアクションがスタートして3年目。企業から「自分たちもなにかしたい」という問い合わせが増えるなど、こども家庭庁では取り組みが着実に浸透してきた手応えを感じている。個人でもできることはたくさんあり、「人との関係性もこどもの居場所になる」と安里さんはいう。
安里賀奈子さん
「たとえば朝、近所のこどもが遅刻しそうで走っているのを見て、『気をつけてね、転ばないようにね』って声掛けするだけでも、その子にとってのちょっとした居場所になれると思います。こどもを支える輪の中に、みんなが自然に関わっていく。身近なところで、まずは一歩を踏み出してほしいと思っています」