現在、日本全国の空き家は約900万戸、実に日本全体の住居の13.8%を占めている(*1)。さらに人口の減少に伴い、2038年には約1,500万戸まで増加するという予測もある(*2)。少子化が様々なリスクとして重く国民にのしかかっているいま、静かに、しかし確実に進行しているのが空き家問題である。国や自治体が本気で対策に乗り出している、この国を揺るがす大問題について、青山学院大学陸上競技部の原晋監督と株式会社タスキホールディングスの柏村雄代表取締役社長が深掘り対談を行った。日本の空き家まわりの実情やサービスはどうなっているのだろうか。
(*1)総務省による令和5年住宅・土地統計調査
(*2) 令和6年6月13日 野村総合研究所の推計による
お正月の風物詩「東京箱根間往復大学駅伝競走(通称、箱根駅伝)」で、チームを8回優勝に導いた原監督は、熊本県水上村で“空き家”となっていた温泉旅館を購入しただけでなく、水上村と包括連携協定を締結。アスリートの強化合宿で利用したり、企業向けの研修旅行を受け入れたりするなど、“空き家”を有効活用している一人だ。
一方、柏村雄さんが代表取締役社長を務める、株式会社タスキホールディングスのグループ会社・株式会社タスキパートナーズでは、「文化を築き、未来を創る。」をスローガンに掲げ、空き家を再生・活用する事業に取り組んでいる。定期メンテナンスを行うことで空き家の資産価値を維持したり、リノベーションして賃貸物件として収益をもたらしたり。空き家に新たな息を吹き込むことで、次の世代へ引き渡すプロジェクトを立ち上げ、好評を得ている。
「空き家となってしまった思い出の家もアイディアによって有効活用できる」と話す原監督と、空き家問題に事業として取り組み社会貢献を目指す柏村社長が語る日本の空き家事情とは?
原監督が考える空き家活用法で人生を豊かに
原監督が、空き家の活用について自分の思い出とアイディアを語る。
青山学院大学陸上競技部 原晋監督
「空き家を単に住むための家ではなく、人が集まる憩いの場にするのはどうでしょう。核家族化が進み、親族がバラバラになる中で、先祖が残してくれた家に身内や友人たちが集まって親睦を深める。そんな、心の充足と人生を豊かにするためのツールとして空き家を活用できたら魅力的だと思いませんか」
株式会社タスキホールディングス 柏村雄代表取締役社長
「憩いの場作りは新しい発想ですね。我々の目線だと、住む場所か投資目的の商品開発に注視してしまい、今まではそういうアイディアがありませんでした。今後、取り組んでいくべき企画ですね」
原監督
「実は、母方の田舎に築200年以上経過した趣のある家がありましたが、相続問題があって管理できていなかったんですよ。天井は雨漏りして柱や壁も腐って傾いてしまい取り壊すしかなく、親族が集まる場所がなくなってしまいました。夏休みにいとこたちと柱で身長を測ったり、大広間で雑魚寝したりしたあの頃が懐かしいです。当時の建物を再建することは難しいですが、昭和の香りがする囲炉裏を囲んで、田舎料理を食べながら酒を酌み交わし楽しい会話ができたらいいだろうな…」
柏村社長
「一般的に、空き家は放置されたまま管理されていないものが多いので、原監督がおっしゃったように、柱や天井が朽ちて倒壊したり、白アリ被害などのリスクがあります。また、庭木が茂って隣家に迷惑をかけるほか、空き家があることで近隣地域の資産価値が下がることもあるんです。当然、空き家の資産価値も下がっていきますので、そうなる前に管理をきちんとしないといけないんですよ」
具体的に何から始めればいいのか、柏村社長が説明する。
柏村社長
「思い出が詰まった実家だったり家族の事情があったり、すぐに売却する決心がつかないことも多いと思います。まずはどうするのがベストかを家族で話し合うことは必要ですね。いざ売却をしようと思ったら、相続人に知らない人の名前があったり、ずいぶん前に亡くなった親戚の名前が残ったままになっていたり…。そういう“ワケあり物件”も、弊社では積極的に買い取りを行っています。狭い私道に囲まれて再建築ができない土地に立っている物件など、一筋縄ではいかないパターンもあります。我々は、グループ創業50年のノウハウを活かして、そういった物件にも対応できる力がありますので、他の業者さんが敬遠する物件でも買い取れることも多いんです」
良い状態で資産価値を維持して次の世代に繋ぐ
柏村社長
「ただ、どうしても当社の基準と合致しない物件もありますので、すべての物件を買い取れるわけではありません。当社では空き家の管理もしており、定期的に風を通したり庭木を剪定したりして、いざ売却するときに資産価値を維持できるように先を見据えたお手伝いをさせていただいています」
原監督
「物件のオーナーからすると、とてもありがたいですね。土地が荒れ果てて、建物もゴミ屋敷のようになってどこから手を付けていいか困ることもあると思うんです。次のオーナーさんへ“襷”を渡すためのサポートをしてもらえることは安心材料になりますし、思い出のある家を価値のある状態で引き渡せるのはうれしいですよね」
柏村社長
「弊社では、所有権移転や相続登記といった事務的なことはもちろん、物件の管理や、買い取りから売却まで、ワンストップでサービスを提供しております。売主様ご自身ですべてを担うことは難しいからこそ、我々にできる役割があると思っています。また、不動産仲介業者を挟まず直接買い取ることで、『手数料が省ける!』と、喜んでくださるお客様が多いです」
原監督
「確かに!登記関係はA社、管理はB社、売却はC社…などと、いろいろな会社にお願いするよりも、コスト面を抑えることができて良いですね」
空き家となった旅館を引き継ぐ──原監督の経験
原監督は2023年から熊本県水上村で空き家だった旅館を買い取り経営。村の活性化も担っている。その狙いを語る。
原監督
「水上村は人口2,000人の村で、加速的に人口減少が進んでいるんです。その中で、行政を中心として、水上村をアスリートタウンにしようと活動をしているのですが、宿泊施設として存在していた温泉宿を閉めることになったと…。そこで、アスリートの気持ちをより身近で感じている僕が引き継ぐことによって、交流人口増につながって街の活性化にもなれば、という思いから応援したいと考えました」
柏村社長
「温泉旅館を取得して、アスリートのための合宿所と研修所という2つの用途として使えるような施設に再生された、そのアイディアがすごいですよね。自治体と連携して村の活性化に一役買っているんだなと」
原監督
「実は、個人的には温泉の源泉があったことが大きなポイントでした(笑)。年に何度か行って、露天風呂付きの離れを利用しますが、お湯が最高なので優雅な気分に浸れますね。うちの陸上部員も、毎年、冬季トレーニングで宿泊合宿をしているんですけど、男女それぞれに完備されている大露天風呂のお湯がトロントロンで、肌ツヤが良くなるんですよ。田舎ならではの天空の下で入る露天風呂は格別で、心も体も癒されますね。また明日から頑張ろう、走り込もうという気になるので結束力も高まり、学生の評判も非常にいいです」
しかし温泉旅館を買い取って活用する際に、問題もあったという。
原監督
「広大な施設なので、やはり所有権問題にぶち当たりました。ポツンと一部だけ角に残っていた土地が違う所有者で…。会社が所有している土地だったので平和に解決しましたけど、個人が所有していたら交渉に時間がかかって大変だったなと思います。隣地との境界線など大なり小なり、購入した後に、予期せぬことが起こりますね。なので、タスキパートナーズのように、権利関係まで責任を持ってやってくださる会社があると我々は安心できますね」
柏村社長
「地方に多いといわれている空き家ですが、都心部にも増えています。実際に東京でも、多摩地区を中心として世田谷区や大田区など90万戸の空き家が存在しており、決して郊外だけの問題じゃないなと実感しています」
原監督
「都心へ人が流れていると感じていましたが、都心部でも空き家が増えているなんて…。それはなんとかしないといけませんね!」
柏村社長
「第一歩としては、なるべく早くプロに相談していただければと思います。タスキパートナーズでは空き家を『人が集まる場所』に再生し、街づくりへの取り組みにつなげていきます」
箱根駅伝直前に聞いた!原監督の夢
原監督に、ズバリ!空き家問題を解決するための作戦を聞いた。
原監督
「みなさん、自分たちが、あるいは親族が代々生活してきた由緒ある場所が空き家になって放置されることに危機感を感じて、『どうにかしたい』と思っているはず。先祖から受け継いできた古き良き思い出が詰まっている場所を有効活用してくれる仕組みが、空き家管理だったり、再生・活用事業なんだと感じました。日本の未来に希望を持たせる施策を実施したら空き家問題も好転するんじゃないでしょうか。名付けて『未来へ継承大作戦!』これから年末年始に親族が集まるこの機会に、そういった話をするのも効果的かもしれません。大掃除を兼ねて断捨離をして、いつか必ず来る空き家を手放すタイミングに備えることができたらいいですね」

原監督は還暦を前に新たなチャレンジとして考えていることがあると言う。
原監督
「実は来年度から、男子の箱根駅伝とともに、青山学院大学の女子駅伝チームの強化に乗り出すことになりました。もちろん、全日本大学女子駅伝での優勝を目指すのですが、真の目的は“女性の自律”なんです。女性アスリートが自発的に活動しているケースはまだまだ少ないんですね。スポーツを通して女性が本当の意味で自律し、トレーニングして成果を出せるようにサポートをしていきます。その結果として、引退したあとに社会に出て管理職を目指してほしいし、そういう観点での子育ても大事だと思います。その第一歩としたいんです。今後そういう取り組みが増えたときに、寮として有効活用できる空き家があったらうれしいですね」
柏村社長
「ぜひ、ご紹介させていただきます!」