2024年元日の能登半島地震、同年9月の奥能登豪雨と、二度の災害に見舞われた石川県・能登。これまで全国から受けた支援に感謝を伝えるとともに、復興への歩みと未来への展望を広く発信するため、石川県は11月22日、東京都内で初のシンポジウムを開く。登壇者は、馳浩知事のほか、実業家のひろゆきさんをはじめ能登復興に関わる多彩な人々。能登をモデルに、地方と都市の支えあいを考える。
「能登への興味、なくなってきている」
宮下杏里さん(34)は、シンポジウム登壇者の一人。能登半島北部の輪島市門前町にある総持寺通り協同組合のコミュニティマネージャーとして、地震前から、総持寺通り商店街のYouTube配信や、月一回の「門前マルシェ」開催など、高齢の店主たちに交じって商店街振興に取り組んできた。人呼んで、「まちづくり女子」。震災から2年目を迎えた今の心境を聞いた。
宮下杏里さん
「復興に向けた話がようやくできるようになってきた段階ですね。今までは復旧で精一杯。復旧は、トイレとか水とか、ないものが分かりやすくて支援してくれる方も分かりやすかったと思うけど、復興となると難しい。人手や資金など、簡単に支援できるものじゃない。そして、全国的に能登への興味もなくなってきているな、と感じます」
曹洞宗の古刹・總持寺祖院へ続く商店街では、全34店舗のうち、およそ20軒が全壊や大規模半壊などの被害を受けた。建物の公費解体が進み、通りには歯抜けのように更地が目立つが、代わりにプレハブの仮設店舗が設けられ、和菓子店や文房具店、飲食店など、元気に接客に励む店主の姿がある。
宮下さん
「震災後は、みんなでもう一度、商店街を盛り上げようなんて、とても言えなかった。でも、地元住民が『あんたのとこの和菓子食べたいし作って』とか、『シャツ買いたいし売って』とか、商店街の店主を頼ってくれて、それが、みんなのやる気につながった。もともと『人のために、寺のために』をモットーにしている人たちなので」
地域の一員として「支え」「支えられ」といった役割を担うことに責任や喜びを感じ、前を向いて生きていくことにつながる。地域コミュニティーの存在は、復興へ踏み出す大きな足掛かりだ。
だからこそ、この先、過疎化が進む未来が怖い。「30年、40年後もここに人がいるのか、という不安が常にある」と宮下さん。地震発生日の2024年1月1日時点から比較すると、能登の人口(七尾市以北の6市町の人口)は、1万人余り減った(2025年9月1日現在)。発生から20か月で8.7パーセント減った計算だ。特に輪島市の減少率は14.2パーセントと大きく、このまま人が減れば、おのずと復興への思いはしぼみ、あきらめが広がっていく。
宮下さんは、これまで応援のために商店街を訪れてくれた多くの人々に感謝し「これからも無理のない範囲で通って、能登の今を見てほしい」と話す。商店街の魅力を聞くと、「人、空気感、ゆったりできる感じ」との答え。「ここはゆっくり時間が流れていて、仕事がはかどらないんですよ」と笑う。
商店街を遊び場に育った宮下さんは金沢の高校、短大を卒業し、ブライダルプランナーなどの仕事を経験。28歳の時、ふるさとの町おこしに関わりたいと、Uターンした。店主に挨拶回りをした時、これからどうしたいか尋ねると、売り上げ拡大でも、来店客拡大でもなく、「おもてなしをしたい」と言われたという。
宮下さん
「すごいな、この人たちって(笑)。みんな他人の幸せに知恵を絞る人たちばかり。誰もがスマホとにらめっこして、人との関わりが減っていく時代にあって、人の温かさと親切さ、思いやりをすぐに感じられる場所です」
宮下さんは今、新たな挑戦を始めている。商店街に、カフェ併設のコインランドリーを作る計画だ。「仮設住宅内に洗濯物を干す場所がない」という住民の声を参考に、地域で話し合って決めた。人が自然と集う場所にしたいという。
県外の方々もぜひ訪れて、門前で人の良さに癒されてほしい。能登は助けを求めているが、逆に外から来た人に与えられるものもある。その自信が、能登復興に取り組む宮下さんの背中を押している。
能登の復興を全国のモデルケースに
石川県が主催する令和6年能登半島地震・奥能登豪雨復興祈念シンポジウムは11月22日(土)13時30分から、東京・丸の内の丸ビルで開かれる。テーマは「いま伝えたい能登の声」。宮下さんをはじめ県内外のさまざまなジャンルの専門家がそれぞれの立場で復興の課題と可能性を語るパネルディスカッションが繰り広げられる。
馳浩知事が基調講演するほか、インフルエンサーで実業家のひろゆきさん(西村博之さん)と馳知事の対談も見どころだ。
ひろゆきさんは、能登半島地震以降、能登をたびたび訪ね、2025年6月、一定額を払うことで、毎月、能登の食品が届く「能登復興支援サブスク(サブスクリプション)」を始めた。寄付やチャリティではなく、ビジネスとしての仕組みを作ることで持続可能な支援を目指す。
2025年7月、北陸放送のラジオ番組に出演したひろゆきさんは、能登の復興を単なる地域の課題としてだけでなく、将来的な災害支援を見据えたモデルケースと捉えるべきだと訴えた。
ひろゆきさん
「他の地域で災害があった時に『能登も助けてないんだし、ここも助けなくていいよね』ってなってしまうと思うんですよね。助けない地域というのは1箇所も作るべきではないんじゃないかなと思っています」
シンポジウムでは、能登の今をどう伝え、どう支えるか。都市の視点も交えて馳知事と能登復興のあり方を語り合う。
石川県が目指す創造的復興とは
石川県は2024年、復興への道筋として「創造的復興プラン」を策定、公表した。「創造的復興」とは、単に被災前の姿に戻すのではなく、人口減少という現実を見据えて、地域に新しい価値を生み出すことを理念とする。
その中で、最重点課題として掲げているのが、能登地域に継続的に関わる「関係人口」の創出、拡大だ。
この理念を具体化するために、石川県は能登の被災6市町と連携し、昨年10月に「能登官民連携復興センター」を設立した。センターは、全国から寄せられる「資金」「人材」「ノウハウ」といった様々な支援を被災地に効果的に結びつける役割を担う。例えば、被災地の地域団体によるクラウドファンディングの活用を後押しする取組や、スポットワークの活用による復興に携わる人材の確保支援、企業人材の専門スキルを活かした社会貢献活動「プロボノ」の支援など、全国の「関係人口」を能登と結びつけるコーディネーターとして機能してきた。
こうした支援の輪を被災地に着実に広げていくことが、関係人口のすそ野を拡大し、能登の未来を支える原動力になると考えている。
石川県 能登半島地震復旧・復興推進部創造的復興推進課 森高志課長
「能登には、震災以前から、その魅力に惹かれて移り住んだ方々や、地域の祭りに加わるために学生たちが集うなど、地域との交流を通じて大きな活力がもたらされてきました。今回の震災によって能登の人口減少が一層深刻化していますが、それでも能登が持続的に歩みを進めていくためには、定住人口や交流人口の拡大はもとより、能登を心で支え続ける関係人口の輪をさらに広げていくことが、大切になると考えます」
シンポジウムでも、地方と都市の関わりがテーマとなる
シンポジウムは参加費無料で定員300人。参加者には能登産の新米が贈呈される。復興の歩みを伝える記念写真パネル展や、石川県アンテナショップの出張販売も行われ、能登の今を知ったり、商品を買ったりして気軽に応援できる特別企画もある。
森高志課長
「能登は、日本各地が直面する人口減少や地域再生といった様々な課題を先取りする『課題の先進地』でもあります。だからこそ、能登が創造的復興を成し遂げ、持続可能な地域の姿を示すことは、日本中のふるさとにとって大きな希望の光となるに違いありません。このシンポジウムが、そんな未来への道を示し、全国に発信する契機になればと願っています」
当日参加できない人向けに、シンポジウムの映像は、石川県公式YouTubeチャンネルで後日公開も行う予定だ。
令和6年能登半島地震・奥能登豪雨復興祈念シンポジウム
日時:2025年11月22日(土) 開場12時30分、開演13時30分
場所:丸ビルホール&ホワイエ(東京都千代田区丸の内2丁目4-1・丸ビル7F)
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