秋の夜長、あなたはどんなエンターテインメントを求めるだろうか。もし、日常では決して味わえない、背筋が凍るほどのスリルと、知的好奇心を満たす興奮を同時に体験したいと願うなら、この秋、その願いが叶えられるかもしれない。

2025年10月11日(土)から11月9日(日)まで、東京ソラマチ5階のイベントスペース「スペース634」にて、体験型企画展『ホラーにふれる展 ―映画美術の世界―』が開催される。これは、単に人を怖がらせるためだけのアトラクションではない。日本映画界を牽引してきた松竹がその総力を挙げて創り出した、『見て』『撮って』『触って』楽しめる、全く新しい形のホラーエンターテインメント 。昨年夏、新潟で3万人以上を動員した企画展が、満を持して東京にやってきたのだ。

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「撮影NG」からの逆転の発想。企画誕生の背景

このユニークな企画は、どのようにして生まれたのか。企画・制作を手掛ける「松竹お化け屋本舗」のプロデューサー 焼田孝さんは、その原点が従来のお化け屋敷にあったと語る。

「松竹お化け屋本舗」プロデューサー 焼田孝さん
「今まで松竹お化け屋本舗では、『映画スタッフが造るお化け屋敷』をコンセプトに企画・制作をしていました。映画のプロが手掛けるだけあって、その美術や造形物のクオリティは極めて高いものです。しかし、ネタバレになるので撮影はNG、造形物などは壊れてしまうので触る事がNGと、常にジレンマがありました」

「松竹お化け屋本舗」プロデューサー 焼田孝さん

恐怖は一期一会。その場限りの体験なのが暗黙のルールだったが、体験した来場者からは、『映画美術が見られて良かった』、『とても作り込まれていて見応えがある』など、恐怖への絶叫だけでなく、美術そのものへの称賛の声が数多く寄せられた。こうした声が、焼田さんに大きなヒントを与える。

焼田孝さん
「そこから逆転の発想で映画美術を撮影したり、触れたら、新たなエンタメを提供できると思い、企画を立ち上げました」

お化け屋敷の“禁じ手”であった「撮影」と「接触」を、あえてメインコンセプトに据える。ホラー映画の世界へ迷い込んだかのような空間を実際に『見て』『撮って』『触って』楽しんでいただくという、前代未聞の企画展は、こうして誕生した 。

スクリーンで目にするホラー映画の、じっとりとした空気感や不気味な佇まい。それらを具現化するのが、美術監督をはじめとするプロフェッショナル集団だが、彼らが精魂込めて創り上げたセットや小道具は、その性質上、「撮影が終了すれば壊される」儚い運命にある。この儚い芸術に、誰もが触れられる機会を創りたい──この企画展には、そんな想いが込められている。


新潟での熱狂と「推し活」という化学反応

2024年の夏、新潟で開催された際には、「子供から大人まで本当に多くの方に楽しんでいただきました」と焼田さんが語る通り、そのコンセプトは見事に時代のニーズを捉え、幅広い層が来場した。特に、SNSでの口コミが大きな反響を呼んだ。一般の来場者からの発信が飛び交い、1,000回以上表示された投稿も少なくなかった。さらに、そこでは制作者の予想を超えた化学反応が起きていたという。

焼田孝さん
「自分の推しのキャラクターと一緒に体験し、撮影して、SNSへ投稿している反応は予想していませんでした」

来場者は、お気に入りのホラーゲームのキャラクターぬいぐるみを持ち込み、恐怖に満ちたセットの中で「推し」の写真を撮影し、その一枚を共有して楽しんでいたのだ。

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「じわじわと迫る恐怖」の作り方。映画美術のこだわり

本展が描き出す恐怖の根源、すなわち「ジャパニーズホラー」とは何か。この問いに、焼田さんは明確な定義を示す。

焼田孝さん
「日常に潜む自分の身にも起こりうる身近な不安や恐怖であったり、呪い、恨みや悲しみなど、精神的な苦痛を感じたり、音や気配などで不安をかき立て、心理的にじわじわと迫るのがジャパニーズホラーの特徴だと思います」

壁の染み、誰もいないはずの部屋からの物音、視線を感じる廊下。そんな日常の裂け目に潜む恐怖。その“じわじわと迫る”独特の空気感を演出するのが、映画美術の神髄であり、本展最大の「こだわり」だ。

映画美術には、スクリーンを通してしか分からない様々な仕掛けや工夫が施されていると焼田さんは語る 。たとえば、経年劣化を表現する塗装技術は、新しい物に経年劣化や汚れ、サビなどを加えることで、まるで何十年もの年月を経て風化した感じを出し、リアリティを生む 。ただ古いものを作るのではなく、時間という見えない恐怖を空間に刻み込む作業だ。さらに、本展では映画製作の裏側を覗き見ることができるのも大きな魅力だ。

焼田孝さん
「すべてを作り込まずに、カメラに映り込む部分だけ作り込んでいるのを見られたりするのも『こだわり』なのかもしれません」

セットの裏に回れば、恐怖を支える木組みや配線が剥き出しになっている。この“ネタばらし”が、恐怖をエンターテインメントへと昇華させ、来場者の知的好奇心を刺激する。


スクリーンの中へ。テーマは「昭和50~60年代の日本」

東京ソラマチの展示では、新潟で好評だった作品はもちろん、新たに多数の作品が追加されている。テーマは「昭和50~60年代の日本」で、どこか懐かしいながらも、不穏な空気が漂う世界観が広がっている。ここでは、その楽しむポイントを紹介しよう。

『見て』楽しむ
人けのない団地の廊下、廃止されたゴミ集積場、さびれた掲示板に貼られた「この人を探して下さい」の張り紙──。昭和の情景をテーマに、細部までこだわりぬいた作品が並ぶ。プロの技術による「汚し」が施され臨場感を醸し出す美術セットは、まるで本物の町が目の前に現れたかのような精巧さだ。また、本展の美術監督の過去作品をご覧いただける「美術ノート」コーナーも設置され、ホラー映画の裏側を覗き見ることができる。なお、会場内の作品は、好きな順番で、心ゆくまで何周でも回ることが可能。

『撮って』楽しむ
会場内の展示はすべて写真・動画の撮影がOK。特別なフォトスポットとして、セットの裏側に回って記念撮影ができる美術作品も展示されている。恐怖を支える木組みや配線が剥き出しになったセット裏は、絶好の撮影ポイント。ご自身の影や手などを加えて、ユニークな一枚を創り出してみてはいかがだろうか。

『触って』楽しむ
造形物に直接触れたり、持ち上げたりと、普段は決してできない体験が可能だ。一見、アスファルトや鉄に見える展示も、「運びやすさ」が重視される映画セットの特性上、実は軽い素材で作られていることがある。是非、その手で触れて、どんな素材でつくられているのかを確かめてほしい。スクリーン越しでは分からない、映画美術の工夫と秘密を五感で体感できるはずだ。

来場者からは、
「ホラーが好きです。最初から見ごたえたっぷりだった。映画美術スタッフの努力や仕事の細やかさがあって、私たちは『怖い』を体験出来ているんだな、と知ることができた。」(20代女性)

「すごく感動しました。実際に舞台に使われているものに触れて、質感がものすごく、リアルでした。」(30代女性)

「映画の美術セットは素晴らしかった。怖いのは苦手だけど、気づいたら夢中になって楽しんでいました。」(20代男性)
という声が寄せられている。

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東京ソラマチの見どころは大道具、「音」にも注目

満を持して開催される東京ソラマチでの展示の「見どころ」について、焼田さんは、「さらにパワーアップ、リニューアルした展示物と、『ある場所』で聞こえてくる音」と期待を煽る。展示物がどのように進化しているのか、そして、この謎めいた「音」が一体何を意味するのか。囁きか、足音か、それとも……。それは、ぜひ会場で自らの五感で確かめてほしい。

恐怖を媒介に、映画製作の創造性に触れる。物語の主人公になるもよし、美術のこだわりに唸るもよし、「推し」との最高のシチュエーションを追求するもよし。この秋、東京ソラマチで、あなただけの恐怖と発見の物語を紡いでみてはいかがだろうか。

『ホラーにふれる展 ―映画美術の世界―』
開催期間:2025年10月11日(土)~11月9日(日)
営業時間:11:00~21:00 ※最終入場は終了30分前まで。最終日は18:00閉場(17:30最終入場)
会場:東京ソラマチ5階 スペース634
入場料:大人 2,400円、高校生以下 1,900円
主催:ホラーにふれる展実行委員会
企画・制作:松竹お化け屋本舗
公式ホームページ:https://plan.shochiku.co.jp/horrornifureruten/