穏やかな秋の訪れを感じる中、10月18日(土)に福岡市中心部のFFGホール(福岡銀行本店地下)と、ふくぎん本店広場で、文化芸術イベント「Art at Art」が開催された。
「アートな建築物がある場所でアートに触れよう」というコンセプトのもと、福岡出身の映画監督・江口カンさんらをスペシャルゲストに迎えてのラジオ公開収録や、地元で活躍するバンドによるライブ、親子でプロの芸術家とふれあうワークショップ、地元グルメや食材が並ぶマルシェなど盛りだくさんの企画が展開され、足を運んだ多くの市民が楽しい秋の1日を過ごした。

建築家・黒川紀章さんが生んだ“作品”
会場となったFFGホールと、ふくぎん本店広場は、今年8月で1975年の竣工から50周年を迎えた。当日のにぎわいを振り返って、FFGホールを運営する、一般財団法人ふくおかフィナンシャルグループ文化芸術財団 理事長の成瀬岳人さんは、次のように語った。
一般財団法人ふくおかフィナンシャルグループ文化芸術財団 理事長 成瀬岳人さん
「ご家族連れを中心に、多くの皆さまに足を運んでいただきました。竣工当時の頭取をはじめ先輩方が『銀行の建物でありながらも、何らかの形で地域の皆さまに貢献できるような文化的施設にしたい』という思いで築かれたこの建物に、半世紀が経った今、参加した子供たちが、プロの芸術家とふれあい、作品づくりに没頭している光景を目の当たりにし、感慨深いものがありました」
天神の中心地に現れたモノトーンの建物は、当時としては街に異彩を放つ存在だった。設計は、日本を代表する建築家・黒川紀章さんによるもの。思わず見上げてしまうダイナミックでスタイリッシュな外観、オフィスビルでありながら、中央部には一般市民が自由に出入りできる開放感いっぱいの広場。この建物は「福岡に新しい時代が到来する」という予感をもたらした。翌年には天神地下街もオープンし、福岡の街はその後、飛躍的な発展を遂げていく。
成瀬岳人さん
「黒川氏が、建築家として社会的な影響力を増していた30代後半の“作品”です。 『地域に貢献できる文化的機能を持つ建物』というオーダーを“屋根のある緑と水と彫刻の広場”と“全面木造りのホール”という形に具現化してくださいました。黒川氏の代表作として今も注目されているのは、非常に光栄です」
FFGホールは、福岡銀行本店の地下1階から地下4階までの吹き抜け空間を使った、階段式の木造音楽ホールである。客席数は一般席692席と車いす席が7席。客席側から眺めると、まるで額縁の中にステージを見るような芸術的な舞台構造が印象的だ。両壁一面には赤松のブロックを組み上げ、天井にも波のように艶やかな赤松板の曲線が広がる。
こけら落としは1975年11月3日に開催された、地唄舞の第一人者・武原はんの舞の会。そして本格的なクラシック公演は、翌年11月に開催された、世界的巨匠・ウィルヘルム・ケンプによるピアノコンサートが最初だった。
建築家・黒川紀章さん設計のFFGホールの内部の様子はこちらへ
国内でも希少な、木造りの音楽ホール
今でこそ企業におけるCSR(※)は一般的な概念になっているが、FFGホールがオープンした1975年当時、世間から見れば、企業による文化芸術活動は、珍しいユニークな発想という認識でしかなかった。
※CSR(Corporate Social Responsibility) 企業が倫理的観点から、事業活動を通じて自主的に社会に貢献する責任を指す。
成瀬岳人さん
「お堅い『銀行』というイメージしかなかった当時、奇想天外な発想と受け止められても仕方がなかったのでしょうね。それでも最初からこの『大講堂』は、銀行内の会議や行事に使用するだけでなく、音楽会や講演会にも使えるホールとして設計されました」
一般的な音楽ホールと比べて勾配のあるFFGホールは、広さと高さのバランスが絶妙で、音が均一に拡散されるという特長を持つ。ステージの音は赤松のブロック壁や曲線の天井に広がり柔らかく変化し、観客の耳に心地よく伝わっていく。
成瀬岳人さん
「多くの音楽家から『音の響きが素晴らしい』と絶賛の声をいただいています。言うなれば“玄人好み”の希少なホールなのでしょうね」
この規模で50年現存している木造音楽ホールは、国内でも極めて珍しい。また、都市部の地下に存在していることもあり、ホールへの階段を降りていくとまるで異空間に来たような感覚を与えてくれる。ただの建築物ではない、この希少な存在価値を50年守り続けてきたことは並々ならぬ努力があっただろう。この価値を未来にどうつないでいくのか、関心が高まっている。
広くその存在を知っていただくために
FFGホールではこれまで、「地域社会に向けた、文化芸術の発信拠点」という設立の理念に沿って、クラシックコンサートや落語会、講演会、各種イベントなどさまざまな文化芸術のイベントが催されてきた。現在では、九州交響楽団によるニューイヤーコンサートや博多天神落語まつりなど、人気イベントの会場にもなっている。とは言え、いまだFFGホールの存在を知らない人が少なくないのも事実である。
クラシック音楽に適した造りであるため、従来はプロによるクラシックコンサートが多かった。「知る人ぞ知る音楽ホール」という印象につながって、一般市民への認知が広がりにくかったと考えられる。
2007年に福岡銀行等を子会社とする金融グループ「ふくおかフィナンシャルグループ」が設立されてから、さらにCSRの充実を図るため、地域への文化芸術に関する様々な取り組みを行った。
2012年にはFFGホールでピアノや楽器の演奏が体験できる「ホール無料開放デー」や、地元の学生による「吹奏楽フェスティバル」を開催した。また2017年には、本店広場とFFGホールを使って「FFG文化祭」を開催し、一般市民が日頃から打ち込んでいる趣味やパフォーマンスを披露できる無料開放を行った。
当然ながら、50年という月日に伴う経年劣化もあり、日々のメンテナンスに加えて、竣工当時のデザイン性や空間美を損なわないよう幾度にもわたって改修工事も重ねてきた。2013年、地域の方々がさらに利用しやすい形へと本店広場をリニューアルした際には、名称を以前の「福銀本店地下ホール」から「FFGホール」へと改称した。ふくおかフィナンシャルグループ(略してFFG)の名をつけ、地域の方々に親しみをもっていただき文化芸術を発信していきたいという想いでイメージの一新を図った。
成瀬岳人さん
「それでもいまだに、『こんな立派なホールがあったなんて知らなかった』という声を、時折耳にします。イベントスケジュールを見ても、これほどの魅力を有するホールが十分に利用されずにいるのが、本当にもったいないと感じます。音楽だけでなく、落語や講談、その他、講演会や式典などでも幅広くご利用いただけるので、地域の皆さま含め、より多くの方々に向けて、FFGホールの存在を広く知っていただけるよう力を尽くそうと考えています」
時代の変遷を見守る、街の象徴として
現在、福岡市の天神エリアは“天神ビックバン”の名のもと、街全体が大きな変革期を迎えている。FFGホールは、半世紀にわたって福岡の街の変遷を見続け、これからもこの場所で街の進化を見守っていく、象徴的存在と言える。
成瀬岳人さん
「プロの音楽家に絶賛される“玄人好みの音響空間”というのがFFGホールの特色ですが、実際にはクラシックに限定することなく、あらゆる文化芸術の発信拠点として利用いただいています。今回の文化芸術イベント『Art at Art』でも、ゴスペルやアコースティックギターの弾き語りなど幅広いジャンルで演奏いただき、改めて可能性の広がりを実感しました。今後も、一般の方々に向けて広くFFGホールの存在とその価値を実感していただく機会を増やしながら、積極的に皆さまの記憶に残る取り組みを進めていきたいですね。FFGホールは、竣工当時の銀行の経営陣と設計者の意思を受け継ぎ、半世紀にわたり、文化芸術と人をつなぐ場として多くの感動を紡いできました。この貴重なホールを未来へとつなぎ、さらに多くの地域の皆さまの心がゆたかになるような企画や発信をしていきたいです」

国内では他に類を見ない、木造りの、金融グループが所有する本格的な文化芸術ホール。そんな希少な存在価値を通じて、着実にすそ野が広がっていく。1人でも多くの人々がこの場所に足を運ぶ機会が増え、「人々に愛されるFFGホール」としての輪郭がより鮮明になっていくのを祈ってやまない。
FFGホールに関する情報
●FFGホールのパンフレット(電子ブック)
https://www.fukuoka-fg.com/sustainability/foundation/ffghall/index_h5.html#TOP
●FFGホールへのアクセス(動画)
https://www.youtube.com/watch?v=RAI8gmSk2CQ
●FFGニューイヤーコンサート2025(動画・期間限定配信)
https://www.youtube.com/watch?v=xke4YQ40LTg