市役所の中だけで完結しない「共創」をキーワードに、地域の未来を切り拓くことを目指す──静岡市が乗り出した新たな挑戦、「知・地域共創コンテスト」=通称、UNITE(ユナイト)が今年も参加スタートアップ企業の募集を開始した。
背景にあるのは、地域が直面する厳しい現実だ。急速な人口減少、持続可能性の危機、地域社会を支える担い手は年々減少し、高齢化が進む山間地域では医療提供体制の維持が難しく、建設業や農業の担い手不足も深刻化している。
さらに、共働き世帯が増える中での仕事と子育ての両立、伐採跡地における再造林・育林促進の循環モデルの構築や静岡市のお茶の輸出促進のためのスキーム構築、静岡都心地区における人中心の公共空間の形成など、静岡市が掲げた18の社会課題は、そのどれもが“自分ごと”として突きつけられる内容ばかりだ。
こうした複雑で多層的な課題に対し、「市役所だけではなく、スタートアップや地域団体等と一緒に取り組むことで課題解決できるのではないか」。そんな想いから、UNITEプロジェクトはスタートした。
コンテストでは、静岡市が抱える社会課題に対して共創アイデアを提案するスタートアップを募集。その後、地元企業、行政、地域とともに「共創チーム」を組み、構想から実証、事業化へと挑戦してゆくというプロジェクトだ。
行政が主体となって課題を提示し、コンテストを通して企業・スタートアップが行政と共にその解決に挑む仕組みは全国でも珍しく、“多様な地域課題に真正面から挑む自治体”だからこそ実現した仕組みといえる。

行政とスタートアップが生む“本気の共創”──交通とエネルギーの未来像
UNITEの可能性を象徴する事例として、静岡ガスとスタートアップのLEALIAN社、nicomobi社による2024年度の取り組みが挙げられる。
3社がタッグを組んだ「運べる電力ネットワーク」の実証で、静岡市の大谷・小鹿エリアで太陽光発電された余剰電力を、LEALIAN製の可搬型バッテリーに蓄電し、EV(軽貨物)の動力源としての使用や、災害時や屋外イベント時にバッテリー単独で活用する。また、バッテリー残量や位置情報は、LEALIANの「Battery Cloud」技術を用いて管理する。そこに、nicomobiの一人乗り小型EVを組み合わせることで、相乗効果を生み出すというもの。
地域イベントでの再エネ活用や、グリッドを介さない(電気の通り道を使わない)新たな電力流通モデルの構築に加え、バッテリーを分散配置することで、災害時の地域レジリエンス(回復力)の向上にも貢献する「静岡市モデル」として全国展開を視野に入れている。静岡ガスが持つ地域ネットワークと知見が、スタートアップの先進技術と掛け合わされることで、まちづくりの新しい選択肢が生まれつつある。

また、Fracti合同会社が提案した「シェアリングムーバー」の取り組みも話題となった。複数の地元事業者で「送迎バス」を共同運行し、病院やスーパーといった生活拠点と居住エリアを結ぶジャンボタクシー型のルートを設定、地域全体で持続可能なモビリティサービスを実現しようとする試みだ。
自治体・地元事業者・外部スタートアップの連携により、運転手不足解消につながり、1社単独で送迎サービスを行うと月に40万円ほどかかっている費用を15万円ほどにコストダウンできる計算になるという点が評価された。移動手段の確保が難しい地域住民にとって、シェアリングムーバーは「無料で利用できる外出のきっかけ」となり、地域経済にも好循環をもたらす。
Fracti 船本洋司さん
「静岡市側の本気度が高い、と感じました。実証実験に対する支援額だけでなく、テーマの具体性が高く、全体的な熱量が高く感じました。今回のモデルは全国に横展開できるものだと思っているので、その先駆けになるようなモデルを静岡市で確立できれば」

プロジェクトの初期段階から、担当課が現場とともに走り、壁にぶつかれば一緒に考え、議論を重ねる。従来の「委託・受託」から、共に考え、悩み、設計していく“伴走型”へ。そんな“共創の現場”が、静岡市内で生まれているのだ。
「共創する自治体」へと進化するために
2025年度のUNITEには、さらなる可能性が広がっている。
昨年度もプロジェクトに参加し、今年度は主導する立場となった静岡市産業政策課の遠藤駿さんは言う。
静岡市産業政策課 遠藤駿さん
「市役所内でも、『うちの課でもやってみたい』という声が出始めています。スタートアップと組めば、課題の突破口が見える──それを肌で感じた職員が増えているんです」
今年は、市外・県外からのスタートアップの参加はもちろん、市内企業の挑戦にも期待が寄せられている。地元メディアも今年度から運営体制に加わり、広報支援や地域企業との接点づくりに貢献。「地元メディアがハブとなって、地元企業とスタートアップがつながっていく。その仕組み自体も、まさに共創の一環です」と市は語る。
UNITEは単なる「政策コンテスト」でも「実証実験」でもなく、行政と企業、そして地域が手を取り合いながら、新しい公共のかたちを模索する実験場になりつつある。
静岡市が描くのは、市民や企業と共に挑む「共創する自治体」の姿。UNITEは、その旗印であり、起点にすぎない。これから何が生まれ、どんな風景が広がっていくのか──その物語は、すでに始まっている。

参加企業・スタートアップ募集中
UNITE2025は、7月現在、共創提案を受付中。社会課題に挑む企業、テクノロジーで地域の未来を変えたいスタートアップの参画を待っている。
UNITE2025コンテスト募集要項
応募形式:一次審査(書類) 通過後、行政・地域団体とチームを組成
伴走支援:事務局・外部メンター・行政がブラッシュアップを支援
実証支援金:二次審査を通過した約10チームに最大500万円支援
▶ 応募・詳細はこちら:https://shizuoka-city.eiicon.net/unite2025/