■制度の問題点 助成金の対象者にも申請情報を開示せず 

元従業員のBさんは、自分の名前で雇用調整助成金が申請されているかどうか、労働局に聞いてみることにした。Bさんにはボランティアをした認識は無い。休業してもいない自分の名前で助成金が申請されていれば、それは不正の証拠になる。

元従業員Bさん(労働局への電話)
「雇用調整助成金のことで聞きたいのですが。僕の名前でいくら申請されたかを…。開示できないということですよね、それはなぜですか?僕の名前で申請されているのに…。守秘義務がある?」

申請したのはあくまで会社であり、その内部情報は助成金の対象者にも教えられないという。

厚生労働省によると、これまでに不正があったとして取り消された雇用調整助成金の額は135億円だという。その多くが実際には働いていた人を「働いていなかった」と偽っていたケースだ。


コロナ禍以降、国が全国の企業や店に支払った助成金は6兆円を超えた。手続きが簡素化され、不正も増えた。厚労省は「労働局のチェックが行き届かなかったことは否定できない」と言う。

だが、不正の背景には助成金の対象者にさえ申請状況を開示しない「制度の問題」もあるのではないか。

元従業員Bさん
「自分の個人情報も教えてもらえないのはちょっと不思議です」

■働いていたのに給与明細には休業手当のみ 「確実に不正」

「加賀百万石」が不正を認めない中、私たちは決定的な資料を入手した。「給与明細一覧表」だ。見せてくれたのは元従業員のCさん。 一般の従業員は見ることのないアルバイトを含めた全従業員の給与明細だ。

Cさんの2021年6月の給与明細を見ると…


基本給の欄は「0」となっていて、休業手当として20数万円が支払われたことになっている。だが…

村瀬キャスター
「普通に働いているわけですよね?」

元従業員Cさん
「ずっと通常出勤です。ひたすら通常出勤」

村瀬キャスター
「休業した覚えはない?」

元従業員Cさん
「休業した覚えはないですね。タイムカードを押さずに通常出勤しています。なんだろうこれは、みたいな話ですよね。確信に変わった時ですね。確実に不正ですよね、これは。国を騙して自分たちの肥やしにしているのは絶対に許されないと思う」

■再び会長宅へ “不適切な申請”ついに認める

不正はあったのか。様々な証拠を手に金沢会長の自宅に再び向かった。すると、妻である昌代専務が対応すると言う。

村瀬キャスター
「お見せしたシフト表ありますよね。出勤に○がついていて、タイムカードが×の人は、会社としては休めという指示だったのか」

金沢昌代専務
「現場に確認したら、出てきた時もあったというのは聞いています」

村瀬キャスター
「それはボランティアだということ?」

昌代専務
「ボランティアにはならないですね」

村瀬キャスター
「前に話を聞いた時はボランティアだったとしていたが」

昌代専務
「ボランティアと言い出したのは誰か分からないんですけど。実際には手伝っていたみたいです。調理を」

村瀬キャスター
「そうするとそれは…」

昌代専務
「出勤にしないとだめですよね」

「やはりボランティアではなかった」と説明。「出勤扱いにしないといけなかった」と話し始めた。

村瀬キャスター
「(ボランティアだとする)その人たちの分はタイムカードを押していないわけじゃないですか」

昌代専務
「押していないですね」

村瀬キャスター
「休業していたことになっているが、助成金の申請に入ってしまっている 」

昌代専務
「ですね」

村瀬キャスター
「そこはまずかった?」

昌代専務
「そうですよ。把握できてなかったですからね」

働いていた従業員の分まで助成金を申請していたことをついに認めた。受け取った助成金を返金する気があるのか尋ねると…

昌代専務
「全部返したいなというのが本当の気持ちですね。百万石だけじゃなくて(大阪も含めて)全部」

加賀百万石、そして別のホテルでも不適切な申請があったことを明かした。しかし…

村瀬キャスター
「受給対象でない雇用調整助成金を申請したことについては 」

昌代専務
「全く知らなかったんですよ。会長も」

村瀬キャスター
「奥様も全く知らなかった」

昌代専務
「働いていたことすら分からなかったので」

不適切な勤務管理や申請は「現場の担当者によって勝手に行われた」と話し、上層部の関与は否定した。

金沢氏は私たちの取材後、会社の代表取締役を辞任し経営の一線から退いた。これまでに会社が確認した不正は4000万円だったとしている。金沢氏によると、労働局は不正申請が始まって以降の助成金の全額=1億円以上の返金を求めていて、会社はそれに応じるとしている。