傷つくオキちゃんから、子の亡骸を受け取るために
1990年5月、5回目の出産も死産になりました。長﨑さんはこのとき、亡骸を強引に回収することをやめ、1人でプールに降り、10メートル以上離れたところでひざまずきました。
「オキちゃん、赤ちゃんを奪いに来たんじゃないよ」
声をかけ、餌を与えながら、ゆっくりと距離を縮めました。殺気立っていたオキちゃんの目が、何度か語りかけるうちに穏やかないつもの目に変わった瞬間を、長﨑さんは今でも鮮明に覚えています。
「もらっていくからね」
赤ちゃんをゆっくりと抱きとりました。このとき、長﨑さんの顔はオキちゃんの鋭い歯のすぐ横にありました。
「もしオキちゃんが気持ちを変えて噛みついてきたら、私は大けがをしていたはず。でも、オキちゃんは攻撃せず、私に赤ちゃんを託してくれました」
◇
しかしそれでも、オキちゃんの心に刻まれた恐怖と不安は消えませんでした。6回目(1993年11月)の出産でも、元気に生まれた赤ちゃんをオキちゃんは自ら殺してしまいました。問題はどんどん深刻になっていきました。
「オキちゃんが妊娠しても嬉しくなく、かえって憂うつだった」
「飼育している僕としては、とてもつらい。 イルカを飼うのをやめたいと思っていた。それくらい、つらかった。それをなんとかクリアしたい。 これは、僕の水族館人生の大きな目的だと思っていた」














